◎10年後続き

「赤司くん名前ちゃん借りてくねー!!」


赤司様聖誕祭もとい誕生記念パーティーから二週間。
私は桃ちゃんに連れまわされていた。
結婚式の準備はする事が沢山あるらしい。

「も、桃ちゃん。今日は何をするのかな…?」
「頼んでたドレスが出来たから試着して細かいところを直してもらうの!」

ドレスは外国の有名なデザイナーが桃ちゃんと黄瀬くんと一緒に私の為にデザインしてくれたらしい。
さすがはトップレベルの会社の社長。
考えることが違う。
会社にある幾つかの会議室の一つにくるとそこにはすでにデザイナーさんと

「なんで黄瀬くんいるの。」
「酷いっすよ名前っち!
俺も桃っちと一緒に頑張って考えたんすから着てるとこ見たい!!」
「あーはいはい。」

きゃんきゃん吠える黄瀬くんは無視して出来上がったドレスに目をやる。
なんでこんなに沢山あるんだろ。
部屋の端から端まであるんだけど。

「これ、全部試着するの…?」
「もっちろーん!この中から厳選するの!
結婚式と披露宴があるからそーだなー10着くらいかなぁ。」

全部って、これ100着以上あるよね…。


征十郎、私今日は帰れなさそうです。



全部着て、選び終わったのは日付を跨いでから随分経った後だった。

「結婚式ってこんな豪勢にするものだっけ…?」

一般人の結婚式に出たことが無い私には何とも言えないが絶対これは度を超えていると分かる。
テレビでやってた芸能人の結婚式よりも豪華だ。

征十郎は私に断りを入れる前から式場を予約していたらしく、プロポーズを受けたすぐ後には結婚式は1ヶ月後だと言われた。
それからの毎日は征十郎は普通の仕事をしているのに私はドレスの採寸や式場の説明を聞いたりなど慌ただしい毎日を過ごしている。
招待状なんかは桃ちゃんが管理してくれてるらしいからその辺はしてないんだけどそれでも忙しい。
結婚式には沢山の他会社の社長や社長夫人が来るらしく、恐ろしい人数になるようだ。
とし兄やまい姉にも招待状を出したが出てくれるかは分からないし、その招待状をちゃんと受け取っているかどうかも不明だ。

「結婚式、憂鬱だ…。」
「あれ、赤司くんから聞いてないんですか?」
「うわっ!びっくりしたぁ。」

いつの間にか横に黒子くんが立っていた。
気づかないほどに疲れていたのか…。
殺人鬼として不覚だ。

「僕で良かったですね。
本物の闇口なら名前さん殺されてましたよ。」
「その前に黒子くんが助けてくれるからいいもん…。」
「いや、僕戦えませんから。」

見てくださいこの細腕とYシャツを捲ってみせる。
嘘つけ。最近鍛えてるの私知ってるんだから。
しっかり戦えるようになってるの知ってるんだから。

「じゃなくて、私何を聞いてないの?」
「あぁそうでした。
赤司くん言ってたじゃないですか。
他会社の人が来るのは披露宴だけで結婚式には身内しか呼ばないって。」
「え、それいつ。」
「式場の説明の時です。」

あぁ多分それ魂抜けてたわ。
そっかそれならまだ気が楽だ。

「まぁそれでも豪勢過ぎると思うんだけどね。」
「それだけ名前さんが大切なんですよ。」

無表情でそんな恥ずかしい言葉さらっと言ってくれるな。
「あれ?征十郎まだ寝てなかったの?」

会社にある自室(勿論家はちゃんとあるがここ最近は忙しくてここに泊まっている。ちなみに桃ちゃんや黒子くんのような幹部の自室もある。)に戻ると征十郎はソファで本を読んでいた。

「あぁ、今日は桃井に取られて名前と全然会えてなかったからな。
帰って来るのを待ってた。」
「そっか、ありがと。遅くなってごめんなさい。」

本を閉じて手招きするので寄っていくとお腹あたりに顔を埋めて抱きしめられた。

「ドレスはどんなのにしたんだ?」
「当日まで内緒。
桃ちゃんと黄瀬くんが面白いから秘密にしとこうって。」
「明日は涼太は寝る暇もないくらい仕事があるらしい。」

可哀相だからやめてあげて。
どうやら仲間外れにされて拗ねているらしい。

「僕も選びたかった。」
「なんで一緒に選ばなかったの?」
「桃井と涼太が部屋に入れてくれなかった。」

部屋の前まで来てたのか。
何してんだ仕事してくれよ社長。
ぐりぐりと頭を押し付けてくるので撫でてみる。
大人しくなったので正解らしいが腰に回された腕は強くなった。

「ありがとう征十郎。」
「いきなりどうしたんだ。」
「結婚式の準備は大変でちょっと辟易してるけど、でも結婚式を挙げれるなんて嬉しい。
殺人鬼の私はこのまま一生独りで誰かを殺しながら生きていくんだとずっと思ってたから結婚式なんて夢みたいだよ。
だからありがとう征十郎。」

漸く顔を上げた征十郎はいつも通り自信に満ち溢れた顔をしていた。

「あの場で君に出会った時からこうなることは必然だったんだ。
僕は君以外を選ぶはずがない。
名前だってそうだろう?」

そう言って立ち上がったかと思うと額にキスをする。
まったく、この人の絶対王政では自分の思い通りにならないことがないらしい。

「はいはい、そうだね。」

あなた以外の人間が私のような鬼と一生添い遂げるなんてできるはずがないじゃないか。


鬼と一緒にいられるのは全ての頂点に立つ皇帝だけなのだから。



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