◎第肆話


新選組幹部が集まるあの広間に私は再び座っていた。
今度は好奇の目線と共に。

「な、土方さん。
悪い話じゃねぇと思うだが、どうだ?」

赤髪の人は片手を顔の前に立てにやりと笑った。
それに土方と呼ばれた黒髪の人は溜め息を吐いて視線を逸らした。

「総司や平助ならまだしもお前が厄介者を拾って来るなんてな…。」
「どういう事だよ、土方さん!」
「あははっ!平助君なら分かるけど僕だったら拾う前にすぐ殺しちゃいますよー。」

他人の事は言えないけど相変わらず物騒な人だなぁ。
ちらりと茶髪の人を見るとにこりと笑った。
気持ち悪い。
すぐに視線を逸らすと土方さんが私を見ていた。

「おい、お前。
本当にここで働くつもりがあるのか?」
「………働けと言われれば誠心誠意働きますよ。
ここを出たって行くとこなんてありませんから。」

土方さんは訝しげに顔をしかめて私を睨んだ。

「ならお前の実力を見る為に総司と試合をしてもらう。
いいな、総司。」
「えー嫌ですよ、って言いたいところだけどこの子強いみたいだからやってあげますよ。
よろしくね、苗字君。」
「………よろしくお願いします。」
「もちろん真剣ですよね?」
「んなわけねぇだろ!」

嬉々として語る総司さん。
私、この人に殺されるんじゃないかな。

「頑張れよ、苗字。」

赤髪の人が頭にぽんっと手を置き撫でた。

「………はい。」

あぁ、兄様もよく私を撫でてくれたな。


「時間は無制限。
どちらか先に一本取った方が勝ちとします。」

私と総司さんは木刀を構え向き合う。
総司さんは笑顔は崩さず、目線だけが獲物を捕らえた獣の様に光らせていた。
普通にやっても勝てないのは分かってる。
なら、

「それでは、始め!!」

その声を合図に私は総司さんの真上の天井ギリギリまで飛び上がった。

「なっ!」
「なんだあの跳躍!」

そしてそのまま木刀を振り降ろす。

「………へぇ。君面白い、ねっ!」

総司さんは私の木刀を受け止め弾き返した。
やっぱり鍔競り合いでは敵わない。
私は空中で一回転して着地し、総司さんと睨み合う。

「そこまでだ!」

お互い踏み出そうとした瞬間、土方さんが声を張り上げた。

「止めないでくださいよ土方さん。
今いいとこなんだから。」
「もう実力は分かった。
お前は採用だ。しっかり働け。」
「採、用…?」

私、ここで働くのか。
兄様は私にまだ生きろとでも言いたいのだろうか。
まだ私は生きていてもいいのだろうか。
なら、
私は土方さんの前に跪いた。

「この命、新選組の為にお使いください。
この身が果てるその瞬間まで剣となり盾となりましょう。」


汗まみれの顔を洗ってこいと土方さんに言われ井戸で水を汲みながらか考えていた。
とりあえず衣食住は確保してくれるらしいのでそれはよかった。
だが私が女であることを隠し通すのは難しい。
さて、いつ打ち明けるべきか………。

「苗字、着替え持ってきたぜ。」

赤髪の人が新しい袴を持って来てくれた。

「ありがとうございます。
貴方には何とお礼を言えばいいのか…。」
「気にすんな。
俺が勝手に引っ張ってきたようなもんなんだからさ。
あ、俺は原田左之助。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げると原田さんはまた頭を撫でた。
原田さんはこの行為が好きなんだろうか…。

「おーい苗字手拭い持って来たぜーっとぁ!!」

え、

「おいおい平助。お前ちゃんと下見て歩けよな。
苗字大丈夫、か……?」

平助と呼ばれた少年が躓いた水が入った桶が私の上に降ってきた。
お陰でびしょびしょ。
最悪な事に顔を洗う為に上着を脱いでいた為に透けてしまっている。
もちろんさらしを巻いているから裸が見えてしまった訳ではないけれど、

「お前、女…………?」

私の秘密は早々と知られてしまったのだった。

「えーーーー!!!!!!!」



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