「ててっ、テルマさん!」
「どうしたんだい、おなまえ。今日アンタ休みだろう?」
「かかっ、隠れさせてください!」


ここはハイラル城下町。そびえ立つハイラル城の下、たくさんの人でに賑わう活発な町だ。
しかしそんな町の大通りから路地へ一歩踏み込めば、その賑やかさから離れて静かな時間を過ごすことができる。
ここ、テルマさんの酒場も同じだ。もちろん賑やかな客が来れば騒がしくはなるけど、街の雑踏とは全く違う。どんな人だって包み込んでくれるような優しさであふれている、落ち着く場所。
わたしはそんな素敵なこの場所で、有難いことにアルバイトをさせてもらっているハイラル城下町の住人だ。朝からお昼頃まではのんびりと町で過ごし、お日様が傾き始めるその頃に出勤。そして夜も更けゆく頃に家に帰り着く、なんて生活を送っている。
この生活になってから長くはないが、店主のテルマさんやお客さんたちからも可愛がってもらっていて、わたしはとても幸せ者だった。はずなのに。


「なにがあったんだい?」
「とっ、とにかく、緑の服の男が来てもわたしはいないと言ってください!」

わたわたとテルマさんのいるカウンターに入り、その下に隠れる場所を作る。
今日は久々に丸一日お休みをいただいていて、とにかく気ままに過ごすつもりだったのに!

「緑の服……? ああ、もしかしてリンクのことかい?」
「えっ、テルマさん知ってるんですか!?」
「最近見てないけどねえ。少し前まではよく店に来ていたよ。おなまえはここで会ったことなかったかい」
「は、はい……」

ということは常連さん、なのだろうか。
テルマさんは酒場の店主だからかいろんな人たちを知っているようだけれども、まさかあの緑男までも。あいつめ、なかなかうまく人間に馴染んでるじゃないか!

と、酒場のドアが開く。来た!
わたしは慌てて頭を引っ込める。

「ああ、やっぱりそうだった。いらっしゃい、リンク」
「え、やっぱり?」

不意を突かれたような、無防備な声が聞こえた。

まずい、まずいよテルマさん!

思わずテルマさんの足をつついて抗議する。
ちらりとこちらを見たテルマさんは申し訳なさそうに、リンクという緑男にばれない程度にぱちりと1回ウインクした。大丈夫ですからと何度も小さく頷いてみせて、早く会話の続きを促す。だって黙ってると怪しいもん!

「いや、そろそろ来るんじゃないかと思ってね」
「そう、か」

テルマさんの返しに歯切れの悪い緑男の声。考え込んでいるのだろうか。
うう、早くどっか行ってください!
だってあいつ、人間じゃないんだもの!わたし見ちゃったんだもの!
ぶるぶると震えていると、またも緑男の声。

「テルマさん。女の子、ここに来なかった?」

うお、きたー!!!

やめてやめてと泣きそうな瞳でテルマさんを見つめる。
お願い、お願いします!いないって言って助けてください!
わたしがここにいるってばれたら、食べられてしまう!

「え、あぁ……来てないね」
「………そっか」

さすが!テルマさんありがとう!
私はまだしばらく生きていけます!

向こう側からはわたしがこんなところにいるとは知らない緑男の悩むような声がする。あいつはまだわたしがここにいると思っているのだろうか。

………はっ、待てよ。ていうか、あいつ人間じゃないんだから、もしかしたらわたしがここにいるのを察知しているのでは……!
これからも人間に紛れて生活していくため、怪しまれないようにわたしここからを連れ出す方法を考えているんじゃないのか!?

「じゃあ」

緑男が声を発する。
ああっ、口封じで殺されるっ……
ぎゅうと目をつむり、震える体を抱き締める。

「また来るよ」

えっ!

「おや、今日は飲んでいかないのかい」
「やることがあって」

テルマさんが引き止めようとするから、やめてー!とまた足をつついていると、彼の方から断ってきた。諦めてくれたのか、な?

「そうかい、じゃあ仕方ないね」
「必ず来るから」
「気にしなくていいんだよ」

テルマさんは微笑んで手を振っていた。ギィ、と扉の開く音がして、それからすぐに閉まる音がする。……行った、かな?

「…………」
「…………」
「………おなまえ」
「………はいっ」
「もう行ったよ、出ておいで」

しばらく静かなままだったが、ぽつりと名前を呼ばれた。返事すれば、呆れたような声で言われる。うう、そんな声されても…
足の震えも落ち着いてきていたし、ぬるりとカウンターの下から這い出て立ち上がる。ぱんぱん、と膝についた埃を払えば、テルマさんが少し困ったようにため息を吐いた。

「一体なにがあったんだい」
「えっ、と、それは……」

私はもごもごと口ごもる。

なにが、あったのか。
わたしは見てしまったのだ。恐ろしい光景を。

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