03

じゃあまず、服全部脱いで。


唐突にそう言い放った私を眼力だけで人を殺せそうな雰囲気を醸し出しこちらを見る我愛羅君。

いやいや、そんな顔されても君の格好おかしいからね、瓢箪も置いていってもらいますからね。
周りに変に思われても困るから、ていうか思われるから一応着替えて欲しいなとお願いする。

キッチンからの明かりと、暗がりに慣れたせいで気にならなくなっていたが、部屋の電気を点けていないと今気づいた私はとりあえず電気を点け、明々とした部屋の元、クローゼットから適当に長袖のTシャツとデニムを取り出した。
これに着替えてね、そして瓢箪を置いてねと我愛羅に言い、さらに額の愛を隠すため鍔が長めのチューリップハットも取り渡す。

大人しく着替えてくれるなんてハナから思ってはいなかったが、やはり渡された服たちを呆然と眺め眉間にシワを寄せている。


「着替えないと、外には行けないよ。我愛羅君は外行ってみたくない?」

ん?と膝に手をつき少し屈みながら顔を覗くと、一応は理解してくれたのか我愛羅君はしぶしぶ瓢箪を降ろし服を脱いで行く。


……はっ!
な、な、生着替え!!いたいけなロリ狸の生着替え!!くう〜〜〜〜!堪らん!

「っ!あぶない……っ。私はショタコンじゃない私はショタコンじゃない……」


妄想の中でしか見たことない我愛羅君の裸を不可抗力とはいえ見る事になり、心の内で歓喜の声をあげる。
だけど違うよ!私はいい大人でショタコンではない、断じてない!


「おい。」
「へ!なに?!な!ぐっっ!!!」

お、おいおいまじかよまじなのか!
クッソ可愛いんですけど!
ショタコンじゃないの件で生着替えはあんまり見れなかったのが心残りだが、ロンTにデニムの我愛羅君なんて私以外誰が見たことがあろうか!!思わず歯食いしばっちゃっただろ!ナルトのお色気の術より威力あるよ!

くそ、動揺が隠しきれない目の前の狸が可愛すぎて隠しきれない。がここは冷静にいかないと機嫌を損ねたら殺されかねない。


「かっ可愛いね!似合ってるよ!ベラボーにね!」
「……」


何言ってんだ私ぃぃいいい似合ってるとかどうでもいいんだよ今はああああ
ほら引いてる、引いてるよ?!

ぐう、だめだ深呼吸だ。とりあえず帽子をかぶせよう。先程から睨みをきかせて殺気を送ってきているようだがそれが逆に私の萌えを増幅させているんだよ我愛羅君。
君は分かってないようだけどね?!

「よ、よし。これ被って、行こうか。靴は……それでいいね」


なんとか帽子を被せ足元を見やると、見慣れたサンダル?を履いていたので靴はそれで良しとした。
靴脱がずにデニム履いたのかな……。
少し丈が長そうなのでしゃがんでデニムの丈を折ってやる。と、太もも辺りをずっと掴んでいる事に気付き、ああやっぱりウエストちょっと大きかったかな、細いもんね我愛羅君は。と思ったので手近にあったベルトを巻いてやって準備オッケー。


「オッケー、行こう」

外へ出たついでに夕飯も買いに行こうと目論みながら我愛羅君を玄関へと誘導し、自分は靴を履いていよいよ家の外へ。


「私から離れないでね」
「……黙れ」

生意気だなあ、まあいいけど。
マンションの一階までエレベーターで降りて行こうとボタンを押し、来るまでの間外に出た際の注意事項を述べた。
急にどっか行っちゃっても困るし、念を推しておく。

チン、とエレベーターが自分達の階までやってきて扉が開き、そこに乗り込もうとするが、しかめっ面で乗って来ない我愛羅君。
あ、エレベーターってナルトの世界には無いのかな。無かったっけ?
それとも超密室に警戒してる?


「大丈夫だよ、こっち入ってきて。下に降りるから」

こっちこっちと手招きしてやると、やっと入ってきてくれた。
それでも警戒を解く事はなく私の方に身体を向けじっとこちらを見ている。
あの、そんなに見られたら照れますが。
照れるなんて言ったら怒りそうだから言わないけどと思いながら一階のボタンを押した。


「……」
「……」

しかし少年我愛羅君は小さいな、このくらいの時期だとまだまだ伸び盛りの頃だよねと、私より十程差はあるだろう我愛羅君を横目で盗み見る。
だけど風影になった時は私の身長も越えてたよね確か。
たった数年でグンと身長が伸びるのか。
男の子の成長とは恐ろしい。


「あ、ついたよ」

どうでもいい事を思ってるとエレベーターの扉が開いた。
開いた瞬間、我愛羅君がビクっとしていたのは気のせいだろうか。

降りるよの合図でエレベーターを後にし、エントランスを抜け外の世界。
私からするとほぼ毎日見る自分のマンション前の光景に隣を歩く我愛羅少年はなんだ此処はと言いたげな様子。
帽子で表情は読み取れないが、驚いているのは間違いないだろう。
なぜなら目の前の道路には車が行き来しているのだから。
鉄の塊がビュンビュンと通りすぎているのを目で追うだけでなく身体ごと、しかも身構えながら見ている。

「身構えなくても……。危なくないよ。どう?あの通り過ぎて行く鉄の塊は車って言うんだけど。見たことある?」
「……いや、」


ははは。これで信じてもらえたかな。
とりあえず我愛羅君の意見は帰ってから聞こう。
私はお腹が空いたのだ。飯を買いたいのだ。
その事を静かにキョロキョロとしている我愛羅君の背中に手を添えながら伝え、返事も待たずに歩きだす。

さっき寄ったコンビニはなんか気まずいから違うコンビニ行くかあ。スーパーでもいいけど人があんまり居ない方がいい。


「我愛羅君、夜ご飯食べた?」
「……俺は、早朝の任務に出ていた」
「は?」

朝だったって事?
我愛羅君によれば早朝から簡単な任務を行う為あのテマリちゃんとカンクロウ君と共に里の外に出て行った時、砂漠では珍しくない突風が吹いたかと思うと、私の部屋に居たらしい。
それ最初に言ってよと横目で帽子を見つめるが返事は来ない。
まあ一瞬目を瞑った瞬間にこっちに来ちゃったんだろうな。
早朝って事は晩御飯とかいう話じゃないって事ね。
それでも私は仕事終わりで腹ペコなのだと、ご飯買うから欲しい物あったら言ってと、辿り着いたコンビニへ入る。
ここはなんでもあるからね。


「何食べようかな、カップラーメンでいっか」

明日の朝ご飯用に食パンも買っとこう。とカップラーメンと一緒にカゴへ、それと牛乳もプラスで入れ、何も言わずについて来ている我愛羅君は何も要らないって事ねと勝手に解釈しレジへ向かう。

会計を済ませ、後ろに居た我愛羅君にお待たせと言いコンビニを出てから家路へつく。
目が合ったやつは皆殺しだ、とか漫画の中では言ってたけど、案外大人しくて良い子なのかな。流石風影の息子といったところ。生意気なのはそうだが肝が座っているというか落ち着いているというか。
見たことも無い科学が発達した世界を目の当たりにして騒いだりも無い。
我愛羅君からしたらこの世界がお伽話のはずだけど。
どこぞのIQ200の影使いのように、物分かりもいいのだろうか。


「おい」
「え?なに?どうした?」
「この道はさっき通った。もう戻るのか」


……。
え、なになにもっとお出かけしたいの?なんなの?可愛いの?

ていうのは冗談で、きっと情報収集とかしたいんだろう。けどお姉さんは疲れたんだ。一人でウロウロさせる訳にも行かないし、明日にしようねと宥めた。


◇◇

それからは特に問題も無く、無事晩御飯を買い家に戻ってきた。
我愛羅君、意外に大人しくて良い子だから助かる。

家に上がる際、靴を履いたまま入ろうとしたのでそこは注意した。
君の世界では靴を履いたままみたいなのかは知らないけど日本では靴は脱ぐのだと、ひとこと言ってやれば素直に脱いでくれる。
この素直さに便乗して今度私の頬っぺたにチュウしてもらおう。
……いや無理か。


「私ラーメン作るから、部屋に入って座っててね」

帽子も脱いでいいからね、と言いながら袋からカップラーメンを取りだし、作るべくヤカンでお湯を沸かす。
うちには電子ケトルなんてものは無い。

お湯を沸かしている間、最初帰ってきた際キッチン台に置いた飲みかけのビールを再び手に取り、ぬるくなってる、と思いながらゴクゴクと一気に飲んだが、やっぱり冷えたのが良いと冷蔵庫を開けた時、物凄い視線に気づいた。


「……なに?」

冷蔵庫から視線を後ろへやれば、棒立ちの我愛羅君が私の方を注視していて。
あれ、私部屋入って座っててねって言わなかったっけ。
一ミリも動いてないんだけどこの子。
そして凄く見てるんだけどこっちを。
ああなるほど監視ね。そうなのね。何もしないのに。

そんなに気になるなら手伝ってでももらおうかなと冷蔵庫を開けた際に我愛羅君用と称したお茶を取り出したので頭上にある棚からグラスを一つ取ってくれと言ってみる。
でもまあ、取ってくれると期待はしていないので沸いた湯をカップラーメンに注ぎながら自分が使う箸を探していると、コトンと音を立ててグラスが一つ、ラーメンの横に置かれた。
グラスを掴んでいたのは砂だった。

「……へ」

いやいや砂でって。取ってくれたのは嬉しいけど砂でって。まあいいけどさ。
ありがとうと言い砂によって運ばれてきたグラスにお茶をそそいでから、我愛羅君に「今度はこれを部屋のテーブルまで持って行ってね」と言うとお茶の注がれたグラスはまた砂によってフワフワと部屋まで運ばれた。

「……」

別にいいんだ、会ったばっかりだもん。別にいいんだけど。
もう少し、開いてくれるかは分からないけど心を開いてくれたら是非砂を使わずにお手伝いをしてもらうように言おう。絶対。


「よし、じゃあ私ご飯食べながら聞くから、外に行って我愛羅君が思った事聞かせてもらえるかな?」

後ろで砂だけ操り立ったまま私を見ていた我愛羅君にカップラーメンとビールを持ちながら向き直り部屋に入る。
私が移動した事で我愛羅君も自ずと付いてきた。無言だけど。

先程私が指示をした為にお茶の入ったグラスがぽつんと置かれているローテーブルに今夜の晩御飯を置き、いつものように座椅子に座ると我愛羅君も向かいに座った。

「さて」

外に出て何か感じた事はあるかい?と片膝を立て座っている向かいの少年にラーメンを啜りながら聞いてみる。
だけど結局、帽子も脱いでいない彼からはなんの返答もない。
帽子脱ごうねと手を伸ばしそれを取り去ると見事な無表情で。
手に取った帽子をその辺に置き再びラーメンを口に運ぼうとすると、ようやく無表情から音が漏れた。


「俺の住む世界とは明らかに様子が違っていた」
「……そうですか」

「……俺は、ある理由で里から忌み嫌われずっと一人で生きてきた。俺の生きていく場所、価値を奪おうとする輩を何人も殺し、そうする事で俺は生きている実感を掴み取ってきた。だがこの異世界の様な場所であるこの世界では俺は言わば雛鳥のような物、俺とこの世界の者とでは常識もなにもかも違うと見た。そんなところでお前を殺し、一人元の世界に帰ろうと情報を集めるどころか生きていくのも困難だろうと考える」
「……う、うん、無理なんじゃないかなほんとに」


この子ほんとに十代そこそこの年齢なの?ていう程物分かりが良いというかなんというか……。
まあそこまで理解してくれて、私にそれを話してくれるという事はとりあえず出て行っちゃったりする事はなさそうだ。
言ってないけど我愛羅君の事を知っている人は何人もいるだろうから、そちらの方がパニックになってしまうのを私は避けたい。
こんなに可愛い我愛羅君を独り占めしたいと少し思っているのは絶対内緒だ。


「俺が元の世界へ帰るまで、お前を利用させてもらう。だが妙な行動を起こそうとすれば俺はお前を殺す」

……利用って。無茶苦茶だなこの子。しかもやっぱ殺すのかよ。
妙な行動って言われても私にとっては子供と一緒に住むことになっただけで、そんなこと初めてだけど大して今までの生活と変わらないだろうから殺される事はないだろうけど。

我愛羅君が私を利用すると言ったところで一緒に住む事は確定したので、私の生活のルールというかローテーションを言っておかないといけないと思いそのあたりも説明する。
仕事があるという事。だから四六時中一緒には居られないという事。
帰る情報を調べると言っても、我愛羅君一人で外に出たりするのはもう少しこちらの世界の事を理解して慣れてもらってからでないと私が不安という事。その辺の人を殺されても困る。

「私に出来る事があればなんでもするけど、まずは少しでもこの生活に慣れてもらわなくちゃ」

「ね?」と我愛羅君の方を見て、理解してくれたかなと視線を寄越す。
でもやっぱり、彼からは何の返事もなくて。
……さっきから何回も何回も思ったが、返事を、返事をしてくれ。頼む。
聞いていない事はないだろうが返事をしてくれないと不安だ。今の世の中返事ができないと苦労するんだぞ。
だが所謂狂気染みた凶器。我愛羅君に向かって返事は?!と大きく言う勇気は私には無くて、不安に思いながらも賢そうな彼なら大丈夫かなと自分を無理やり納得させ残りのラーメンを啜った。