「え?!お前、クッキー食った事ないの?!」

 目の前の道化師は何がおかしいんだ?と不思議そうな顔をしている。
こいつは道化師、ジョーカー。
荘園のゲームでは俺とは敵同士のハンター。
昼間のゲームでこいつにボコボコにやられ、タックルも決まんなかった日にこっそり夜練習してた。その時にお腹空いたしキッチン寄ったら、こいつがすげえ美味いサンドイッチ作ってた。ハンターに味覚がないと聞いたことがあるが、嘘みたいに作るもんが美味い。そこから事あるごとにキッチンにいるこいつを見つけては夜食を作ってもらっている。


「キンダーガーデンで、おやつの時間にミルクと一緒に配られたりしただろ?!」
「キンダーガーデンなんてものに行った事ない」


行った事あるわけないだろ?とまた不思議な顔をしている。荘園には色んな国や時空の奴らが集まる事を知っていたが、自分が当たり前だと思っていた事が通じない事に本当に驚く。こいつはあまり昔の話をしたがらないから詳しくは知らないが、俺の歩んできた人生とは全く違うって事だけは確かだ。

「じゃぁ、クッキー作ろうぜ!」
「は?」

というのが昨日の夜のやり取り。目の前のカウンターには薄力粉やバター、砂糖や卵、チョコチップが置いてある。ここに置いてあったレシピ本に載っていた材料だ。
正直食べた事あっても作ったことはない。できるかなんてわからないけど、度胸となんかあればどうにかなる!チョコチップを入れて焼けばできる。

ドアが開いて、道化師が入ってきた。少し驚いたような、感心したような顔で俺を見る。

「準備できてるんだな」
「当たり前だろ!ほら!作るぞ!」

ガシャンと音がした。
道化師が何か入っている布袋をカウンターの上に置いた。中身を聞く前に道化師が袋を開ける。中からは色々な形の鉄の型が出てくる。ハートや星、動物の形や花もあった。驚いて道化師を見ると「違うのか?」と聞かれる。


「クッキーっていうのはこういう型で抜くんだろ?」
「そうだけどさ、どこから持ってきたんだ?」
「作った」
「作れるのか?!」

どれを見ても手作りとは思えないほど綺麗に作られていた。いつもの試合中、乱暴で豪快なプレイをするハンターとは思えない。よく見ると他の型よりも大きいラグビーボールのような形をした型を見つけた。

「これも作った?」
「お前のトレードマークだろ」

手にとって見ると縫い目やラインもしっかりと再現してある。俺は材料入れて丸く焼けばクッキーだと思っていたが、こいつは何かで型を抜くと知って作ってきた。わざわざ俺のトレードマークのラグビーボールを作ってくれたという事に嬉しくなってくる。

「さっさと作るぞ」

道化師を見るとすでに背を向けて、ボールに材料を入れ始めていた。








2021/10/30