いつの間にか私の中でキッチンで過ごすというのが一つの楽しみになっていた。
料理を作り食べてもあまり感動はない。むしろ味がせず、食感だけするという感覚が慣れなくて気持ちが悪いこともある。
それでも私の代わりに美味しそうに食べる存在があると、普段は可愛げのない敵であろうが、作り甲斐がある。


時計を見る。今日は来なさそうだ。今日の最終試合にあいつは出ていて試合時間も相当長かった。疲れたんだろうな。


戸棚の一番端にある紺色の缶を取り出した。最近、写真家からハーブティーというのを貰った。味覚はないが、あいつは嗅覚で味わって楽しむのが好きだと言っていた。お湯を沸かし、カップにお湯を注いで温める。お茶なんてそのままお湯を入れて、茶葉を入れればいいと思っていたが写真家に怒られた。
カップを温めている間に缶の中から茶葉を取り出し、お湯を入れたティーポットに入れる。すぐに入れると駄目らしい、面倒な飲み物だ。カウンターに置いてあった砂時計をひっくり返す。
待っている間に何をしようかと考えていると扉が開く音がした。

「来たのか」

いつもよりも静かにオフェンスが入ってきた。珍しいこともあるもんだと思いながら見ていると、横に来たかと思えば前にあるカウンターに突っ伏す。


一言も発せず、顔を上げないオフェンスに違和感を覚えた。何かあったのか?わからないまま、なんて声を掛けるべきか迷う。でも、声をかけない方がいい気がして戸棚からもう一つカップを取り出した。砂時計の砂はまだ落ち終わっていないが、対して変わらないだろう。
お湯に入っていたカップのお湯を捨て、中にお茶を注ぐ。それをオフェンスの前に置く。

オフェンスが顔を上げて、カップと私を見る。私は視線を合わせず、自分のカップにお茶を注ぐ。

「ありがとな」
「おう」

カップを鼻に近づけ匂いを嗅ぐと、薬草みたいな匂いがした。これが果たして美味いのかわからないが、横でオフェンスは熱いのか唇を尖らせてお茶に息を吹きかけながら飲んでいる。

「...試合は全員で脱出したいんだよ」

今まで黙っていたオフェンスが口を開いた。それを黙って聞きながら横でお茶を飲む。暖かい液体が口の中に入ってくる。

「試合を勝ちに持っていくなら見捨ても必要だと思う。でも、ちょっとでも助けられる可能性があるなら賭けてみてぇじゃん」


 こいつの最終の試合は確かリッパーで、引き分けだった。ホールで何やらサバイバー同士が揉めていたのを思い出す。


チラリと横目でオフェンスを見ると、ハッとしたような顔をして、オフェンスが慌てて言葉を紡ぎだす。

「こんな事、お前に言っても知らねえよってなるよな!悪い!ひとりごとだから忘れてくれ!」

まだ飲み終わってもいないカップを置いて、カウンターを離れようとするオフェンスの腕を掴む。別に放っておけばいいと思う。それでもこのままどこかへ行かせてはいけない気がして掴んでしまった。驚いているオフェンスに視線を合わす。

「私はここでお茶を飲んでるだけだ。気が済むまで独り言でも言えばいいだろ」

お節介だということも知りながら、掴んでいた手を離す。視線をカップに戻すと左腕に何かが重くのしかかってくる。
オフェンスが私の腕にもたれかかっていた。


「ありがとな」
「...おう」


さっきも同じようなやり取りしたなと思いながら味のしないお茶を一口飲んだ。









2021/10/30