荘園が解体される、そう聞いたのは昨日だった。明日のゲームでゲートから出たら、願い事は叶えられ自由の身になれる!今日はパーティがあって、どこを見てもどんちゃん騒ぎだった。いろんな奴らが歌って踊り、今までの思い出やこれからの事、楽しそうに夢を語っていて、俺もお酒を片手に胸が弾んでいた。ハンターたちの姿が見当たらないが、あいつらだけでパーティをしているのであろう。最後だと思うと、無性に道化師に会いたくなった。パーティの余興で出てきたパイを二切れ拝借し、一か八かでキッチンへ向かった。
「やっぱ、いるじゃん!」
「何だ」
「これ食おうぜ!」
特に何か作っていたようでもなく、一人でキッチンにいた道化師にパイを差し出す。
「パイか?」
「中に陶器の人形が入ってるやつ!一緒に食おうぜ!」
ガレット・デ...なんかそんな名前のパイだ。本当は当たるといいみたいなやつらしいが、食べた人のパイに全て陶器のミニチュアが入っていた。きっと、これからの運命の暗示じゃないかって誰かが言っていた。
差し出すと道化師は一切れ掴み豪快に口に入れる。まるでミニチュアごと食べてしまうんじゃないかってぐらい。俺は残った一切れを齧った。歯にカチンと音を立てて何かが当たった。吐き出すと、鍵のミニチュアだった。同じように道化師も何か出たのか手のひらに吐き出していた。
「俺は鍵だ!」
道化師の目の前に差し出すと、道化師も自分の手のひらを見つめる。何かを考えるように手のひらの中のものを見ている。不思議に思い、道化師の手のひらを掴んで中を覗くと小さいメリーゴーランドがあった。
「メリーゴーランドじゃん!ここでよくチェイスしたよな!」
メリーゴーランドを見つめたまま、何も言葉を発しない道化師を不思議に思いながら見つめる。
「昔、」
小さい声が聞こえた。道化師を見つめるが表情がよくわからない。
「...小さい頃だ。サーカスにくる子ども達が羨ましくて、メリーゴーランドに乗ればサーカスからどこか遠くへ行けると思ったことがあった」
道化師がぎゅっとメリーゴーランドを握る。
「結局は同じ場所に戻ってくる。そりゃそうだ、どこかへ行けるなんてことはないのにな!」
道化師は笑っているが、俺は笑えなかった。何だか自分自身を嘲笑っているように見えて無性に腹が立った。ぎゅっと握られている手のひらを掴み、無理やり開いてメリーゴーランドを奪って自分のポケットに入れた。代わりに鍵をのせ、道化師の指に俺の両手を添えて握らせた。
「じゃぁ、新しい場所へ行けるように俺の鍵やるよ!」
「おい、」
「俺の鍵があればどんなドアでも開くぜ!何たって天才ゲームメーカー、ウィリアム・エリスの鍵だ!」
「無理やりすぎるだろ」
笑いかけるとさっきとは違って噴き出すように道化師が笑い出した。さっきよりずっといい。
「それにメリーゴーランドは同じ場所に戻ってくるけどさ、」
ぎゅっと握っている手に力を入れる。
「同じ場所に戻ってくるからまたお前と会えるだろう?次に会ったらまたサンドイッチ作ってくれ!」
「お前はおかしな奴だな」
「料理できるし、サーカスじゃなくてカフェも開けるな!」
「勝手に決めるなよ」
道化師と目が合った。今更だけど俺はこいつの名前を知らない。
「そう言えば、俺はウィリアム・エリス。お前は?」
「今更だな。私はジョーカーだ」
「また会ったらよろしくな!」
きっと、明日のゲームが終わっていつかどこかで会える気がした。
2021/10/30