痛みを愛だと知っている
「今日も来たよ」
いつもと変わらない真っ白い部屋。
綺麗に整えられたベッドの脇にある椅子に俺が座るのも。
少し空いた窓から吹くかぜに揺れるカーテンも変わらない。
そして、あかねの目が覚めないことも。
もう、いつだったかも忘れてしまった。
あかねが任務中にヴィランの個性によって意識不明になってからどれくらい経ったのか。
俺にとってはつい昨日のことのようでもあるし、もう何十年も経っているような気もする。
「そうだ、あかね。あいつらまたやりやがったんだ」
「いつものごとく突っかかって来た爆豪に、緑谷がなーー」
返事の代わりに、規則的な機械音がこだまし続けるこの空間。
最初は虚しくてやるせなくて、苦しかったはずのこの空間が、この音が。
慣れとは恐ろしいものだが、この機械音を聞くことで、どうにか俺の心は保たれているとすら感じるようになってしまった。
「あいつらから、あかねにだ」
「あの轟や、爆豪まで一緒に作ったんだぞ」
「…綺麗、だろ」
紙袋からごそごそと取り出したのは千羽鶴。
色とりどりで、美しい鶴やらだらしのない鶴やら三者三様で。
あいつららしいな、なんて。おまえなら喜んで笑うんだろうなとそう思う。
「…いい加減、返事が欲しいよ」
ぽつりとこぼれた本音。
あかねの声が聞きたい。
あかねの目を見て話したい。
「…もう、待ちくたびれたよ」
「……ご、めんね」
「!!」
俯いた俺の耳に、ひどく掠れた、けれども懐かしく感じる音が響く。
「消太…待たせて、ごめん」
「あかね…、」
ゆっくりと視線を上げると、ベッドの上でしんどそうながらもしっかりと俺を見つめるあかねがいて。
何度、この光景を夢に見ただろう。
何度、この光景を焦がれただろう。
何度、何度……。
「手、つなぎたい」
「……ん」
心持ち震える繋がれた手は、すっと溶け込むように温かくて。
あぁ、生きてる。あかねが、生きてる。
「……あり、がとう」
「消太、」
「…生きててくれて、ありがとう」
すっと頬と伝った一筋の涙に、俺の、俺たちの想いが報われた気がした。
痛みを愛だと知っている
fin.