03
洗濯物を回し乾燥に二時間はかかるのでその間にお風呂に入る。
肩が傷だらけだから体を洗うだけで済ませ、髪の毛を乾かしタオルで肩を押さえながら出れば、ばったり翔達と出くわす。
『翔ちょっとええ』
「なん?」
『肩の傷にガーゼ貼ってや』
「ん」
翔と部屋に来て消毒してもらいガーゼを貼って貰った。
「ええよ」
『ん』
「外で石垣君と何話とったん?」
『別に』
「邪魔しに行こうかと思うたけど、辞めといたわ」
『見とったなら邪魔にし来てや』
「ほんまに良かったん?」
『なん?』
「…石垣君の事好きやろ」
『はっ、はぁあ? 何、なん、ばっ』
翔はじっとウチの目を見て来たので逸らす。
『別に、そんなん』
「……」
『邪魔やいらんのや、そんなん、お節介やかれただけや』
「無茶するなって言うたんか」
『せや、ケガするな言うて、ご飯食べろって、食べてるわ』
「…それ以上にカロリー消費しとるから意味ないけどな」
『……』
「アキナは女の子や」
『それはもう聞き飽きたわ』
「それは変わらんやろ、母さんいっとった、無茶せえへん範囲でボク支えろって、今のアキナはどうや?」
『……』
「肩削って、体も細うなって、自分の気持ちにウソまでついて、母さん見たら何て言うんやろうね」
『……おらん』
「おらんけど、泣くやろうな」
『おらんから、泣かへんやろ!』
「…せやな、けどボクがおる」
その言葉に翔を見れば哀しそうな顔をしていてそっと私の両腕を掴む。
「ボクは嫌や、アキナまでおらんくなるんやないか思う」
『ウチは居なくならへんよ』
「母さんみたやで」
『……』
「この細さ同じや、このままじゃおらんくなる、それにここも壊れまうよ」
そっと胸に手を置かれた。
「アキナはアキナや、ボクやない、せやから、ほんまに石垣君好きなら隠さへんで認めた方がええ」
『邪魔や』
「邪魔やないよ、石垣君はアキナの邪魔になったりせえへん思う」
『……』
「ボクが支えきれない部分を支えてくれる想う、せやから、もう隠さへんでええよ」
翔の言葉にぼろっと涙が出て止まらず泣きじゃくる。
すると翔は腕を伸ばし抱きしめてくれ、翔の膝に乗って胸元に顔を埋めた。
『うあぁあ、好きや好きや、石垣君は赤色や』
「そうなんやね」
『インハイ終わった後、前進め言うてくれたんや、さっきも体大事にせなあかんてお母さんみたいな事言うてっ…』
「言いそうやな」
『やのに、好きな子おるって』
「あー、言うとったな」
『ウチずっと憎たらしい事言うてたし、態度悪かったから好きになってもらえへん』
「分からんやろ」
『きっと嫌いや』
「石垣君は嫌いな奴に絡んだりせえへんよ、少なくともアキナの事は嫌いやないやろ」
『せやけど』
「ええから、これから頑張ればええやろ」
『頑張る?』
「せや、それしかあらへんやろ、好きなら手段選んでられへんやろ、これはようは勝負や」
『勝負』
「そうや、石垣君落とすのがゴールや、今はスタート前や、夕飯からスタートや」
『分かった』
「ほんなら、スタート地点行こうか」
『うん』
涙を拭って翔と大広間に行けば、皆集まっていて石垣君が気づいて手を上げたので近寄る。
翔が奥の席に座り、私は一個開いた石垣君の横に座った。
「遅いから心配しとったんや」
『別に、心配されるようなっ』
横から翔がどんっとやって来たので見れば睨んで来たのでもじもじする。
「どないしたん?」
『せ、せやから』
「おん」
『別に心配せんでも、ウチ平気やし、その、別に』
「どないしたん」
『い、石垣君に心配してもらわんでも、ええ子やから』
「せやな御堂筋はええ子やもんな」
そう言って頭を撫でられピィと声を漏らす。
「なんや急に大人しなって、具合悪いか?」
「なん、石垣君アキナが大人しなったらあかんの?」
「いや、そうやないけど、なんや調子狂うやろ」
「女の子やで、そりゃ大人しゅうする時もあるわ」
「そっか、そうやな」
「ほんで、石垣君」
「ん?」
「キミの好きな子ってどんな子なん?」
「なっ」
「な?」
「なんや急に」
「ええやろ別に」
「そう言うの興味ないやろ」
「なん、教えてくれへんの?」
「い、いや、その、別に、あれや、かいらしい子や」
「どうかいらしいんや、見た目とか色々あるやろ」
「いや、せやから、その、あれや」
「なん?」
「こう髪の毛はせやな長いな、そんで、まあ、あんまり好かれとらん思うで、よう怒らるからな、けど、純粋で根はええ子や」
相当好きなのだろう、石垣君の頬は赤くなっていた。
ウチの好きな赤、でも石垣君をそうさせているのはウチじゃない。
これならやっぱり好きと認めない方がよかったかもしれない。
『あんま好かれとらんのに、よう好きで居るな、馬鹿なん?』
「お、いつもの調子に戻ったな」
『やかましいわ』
「それでこそ御堂筋や、で、そうやね、しゃあないわ、それでも好きやからな」
『相手の子は嫌なんやないの、やって怒られとるんやろ、そら嫌いやからやで』
「そうとは限らへんよ」
『ファー、頭の中お花畑やね石垣君』
石垣君を見れば優しい笑み浮かべ、それでも好きやからしゃあないな、と笑う。
『あ、アホや』
「そうやな、けど、好きになるんはそういうことやろ」
『知らんわ』
「いつか分かるで」
その言葉にやかましい、と言えば他の人達も集まり夕食が始まった。
石垣君は井原君達と喋っていて、ウチは一人もくもくとご飯を食べる。
今日の夕飯はウチの好きな唐揚げとハンバーグで豪勢だ。
ばくばく食べて居ればそっと唐揚げを一個お皿に置かれ翔を見上げる。
「ボクこんなにいらん」
『ウチもいらん』
「え? なん?」
『食べるわ』
お皿に乗っていた分を食べ終えちらっと石垣君を見れば、唐揚げが二個残っていた。
『あれあれ石垣君』
「どないしたん?」
『唐揚げさん食べへんの?』
「っ……」
『しゃあないな、ウチが食べてあげるわ、どうしても言うなら』
「御堂筋は唐揚げ好きなんか?」
『ちゃうわ』
「アキナは子供が好きそうなもんが好きや、唐揚げもハンバーグもグラタンも」
『余計な事言わんで』
「そうなんか、かいらしいな」
『ピッ』
「ええよ、食べて、沢山食べなあかんもんな」
『い、いらんわ』
「ええから、ほら」
そう言ってお皿にから揚げを一個置かれ頬張る。
旨いか? と笑う石垣君にべつにぃ、と返せば笑った。
「御堂筋さん」
『「なん?」』
二人で顔を上げれば幹ちゃんが居て、あ、そっかごめんえっと、と言うのでウチやね、と笑いかける。
「うん、これよければ食べて、私こんなに食べれないから」
そう言って唐揚げを三個くれておおきに、と笑いかけた。
「後、連絡先」
『ああ、交換やね』
ズボンから携帯を出して幹ちゃんと交換する。
「あ、来た来た、スタンプ送っていい?」
『ええよ』
「じゃあ、送るね」
『ほな、ウチも何かあれば連絡するな、幹ちゃんもなんかあれば言うて』
「うん、ありがとう」
『こたらこそ』
「あ、そうだ、明日お風呂一緒に入らない?」
『ええよ、ほんなら明日は』
「明日は皆で川でバーベキューだよ」
『「ファ!?」』
「あれ、聞いてない?」
いや、そう言えば言っていた、先生が水着持って行けよ、と言っていてユキちゃんがなんか水着入れていた。
完全に忘れて居た、明日も練習だと思い込んでいた。
『言うてた』
「言うてたわ」
「うん、だから明日は川だから戻ってきたら一緒に入ろうね」
頷けばじゃあね、と自分の席に戻りウチは唐揚げを頬張り明日の川を思い浮かべる。
『川やからウチはいらへんね』
「ファ!?」
『頑張りや翔』
「ほんならボクも行かへんわ」
「あかんわ、二人とも行くんやで」
『「いやや」』
「なん? まさか泳げへんの?」
『ハ、ハア、ちゃいますけど、何言うとるん?』
「自転車に関係あらへん」
「泳げないんやな、大丈夫やで浅瀬ある言うてたし、皆で行くんやで」
そう言って笑った石垣君の顔は赤いのに少し腹がたった。
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夕飯を食べ終え、皆で解散したので部屋に戻る。
布団の上でストレッチして歯磨きをする。
しゃこしゃこ洗っていればドアがノックされたのでなんや、と思いながら出れば誰も居なくて廊下を見ても誰も居ない。
間違えたか、とドアを閉め口をゆすげばまたノックされ、なんやの、と言いながらドアを開けた。
しかしそこには誰もおらず廊下を見ても誰も居ない。
気のせいや、とドアを閉めた瞬間またノックされ恐る恐るドアを開けた。
『ピッ! ピィイイイィイ!!』
ドアの前には誰もおらず悲鳴に近い声を上げて、ウチは部屋を飛び出した。
そのまま三校で寝て居る大部屋に飛び込んだ。
久し振りに自転車以外で全速力で走ったので息が上がる中、皆の視線が集まる。
その中に翔はおらず、部屋の一番奥でもうすでに寝て居た。
『はあ、はあ』
「ど、どないしたん御堂筋」
石垣君の言葉を無視して歩いて翔の布団に潜り込む。
「……なん? 邪魔や」
『寂しいやろ、一緒に寝たるわ』
「ハア、いらんわ」
『ほんまは寂しいんやろ、ええかええから』
「キモッ、なん、邪魔や」
そう言って布団から出されたのでいやや、と翔に抱き着く。
『ここで寝かせてや、ええやろ、なあ』
「鬱陶しいわ」
『いやや、部屋戻れへんのや、翔お願いや、なあ、ええ子にしたるから』
「知っとるやろ、ボク誰かと寝るの嫌なんよ」
『ええやんか、昔は一緒に寝とったやろ、なあ、お願いやから』
いやや、と引っぺがされ布団から出されたので舌打ちをした。
意地悪な男や、と囁いて部屋の隅っこで体育座りをする。
『ええよええよ、ほんならここで寝てるわ』
「勝手にせえ」
ムスっとしたまま膝に頭を乗せればどないしたん、と石垣君が近寄って来た。
「ちゃんと布団で寝なあかんよ」
『翔が寝かせてくれへん』
「部屋あるやろ?」
『せやから部屋戻れへん言うとるやろ』
「どないしたん?」
『……お化け出た』
「へ?」
『お化けが出たん言うとるやろ!』
石垣君を見ればぽかんとした後、みるみる口が緩んで今は笑いをこらえている。
『なっ、馬鹿にしとるん』
「ちゃ、ちゃうよ、すまん、笑い事やないな」
『石垣君なんか大嫌いや!』
「すまん、堪忍な、どんなお化けでたん?」
『教えたらんわ、あっち行け』
「俺が悪かったから、な?」
『ドアノックされたんや、出たけどされも居らん、ドア閉めて直ぐにまたノックされたから開けたらおらん』
「マジやん」
『せやからそう言うとるやろ!』
なんやねん、と膝に額をつければ、せやけど、ここはあかんよと言われた。
なので無視を決め込めば、困ったな、と囁く。
「そや、総北のマネージャーか箱根のマネージャーと寝たらええやん」
『アホちゃうん、起こしたら可哀想やろ、もう寝とるはずや、何時やと思うとるん』
「せ、せやな」
「俺等は起こしてええ思われたんか」
『当たり前やろ、キミらはウチの駒やからウチが困っとる時は寝とったとしても起きて動かなあかんやろ、アホか』
「はぁあ、なんやほんま御堂筋のそれたまらんわ」
『キモッ』
たまらんわ、と囁く井原君にほんまキモイわ、と体を縮こまらせた。
「別にいいんじゃね、適当に寝かせりゃ」
「俺達は気にしないが」
「そうか、ほんなら御堂筋、俺の布団で寝てええよ」
『キミ、何処で寝るん?』
「俺がここ座って寝たるから」
『ええわ、ウチここで寝たるから』
「あかん、女の子なんやからちゃんと寝な体冷やしたらあかんやろ」
『うっさいわ、ええからあっち行き』
しっしっとやれば石垣君はしゃあないな、と掛布団を持って来てウチの横に座るとそっと布団をかけてくる。
『ピッ! 来るなや』
「布団で寝るか俺とここでこうして寝るかや」
『どっちも嫌や、あっち行け』
「動かんよ」
石垣君を押したがびくともせず、力を入れても動かず立ち上がろうとしたら腕を掴まれた。
「どこも行かせんよ、二択やここかあっちか」
どないする? と笑う石垣君に布団行くわ、と腕を振り払って布団に横になる。
『井原君』
「なん?」
『やらしい事せえへんでね』
「せ、せえへんわ!」
信用ならんわ、と言えばお前っ、と怒っていてべーっとやれば石垣君がほんなら布団な、と来たので腕を掴んで引っ張った。
石垣君はウチの横に倒れこんだので背を向けて、キミ今日は壁なと布団をかける。
『そこにおって、井原君こっちこうへんように壁になり』
「か、壁って、そな」
『ええから、これは命令や、ウチの命令は絶対や、動くな、寝れへん』
「……しゃあな、分かった」
『ほんなら、寝る静かにしいや』
目を瞑れば石垣君は皆堪忍な、と囁いて誰かが電気を消した。
こうして誰かと寝るのは小学生以来で、ぬくぬくで温かくて幸せな気持ちになる。
横からは石垣君の匂いがして、胸いっぱいで、凄く安心した。