08
病院に行った結果、右足は靭帯を損傷していて、ギプスをしてもらい、一週間は学校には行ってもいいが絶対に安静にしている事、と言われた。
自転車やって絶対に乗ったらあかんからね、と病院まで駆けつけてくれたおばさんに言われ何度も頷いた。
そのまま私と翔はおばさんが乗って来た車に乗って、先生にお礼を伝え、三人で家に戻る。
自室に戻って朝日と夜には連絡してから石垣君とのメッセージを開く。
電話の履歴が残っていて、保健室で乗り取りを思い出し、ボッ、と頬に熱が溜まって心臓がぎゅうっとなる。
石垣君が言ったことが嘘じゃないなら、石垣君も私を好きで居てくれたと言う事で、これは少女漫画で読んだ、両想いというモノで、この後はお付き合いしたり色々したりする事になる。
その色々を想像したら心臓が爆発しそうになったので考えるのをやめ、石垣君に病院で診断された内容と家に帰ったことを報告して布団に横になった。
目を閉じればどうしても石垣君の事を思い出してしまい、心臓が煩くなるが、でもぽかぽかももする。
ああ、早くもう一回会ってゆっくり話がしたいな、と石垣君の事を考えながら私は眠っていた。
夢の中で石垣君が好きや、と凄く真面目な顔で言ってくれたので、私も、と返せば凄く嬉しそうな顔をする。
そんな石垣君に笑いかえし手を伸ばせば指を握ってくれ、私も石垣君の指を握り返した。
石垣君の指は暖かくてああ、幸せだな、と思った所で目を覚ます。
真っ暗な部屋の中、目を擦ってから起き上がれば、かけた覚えのない布団が太ももに落ちた。
おばさんか誰か来てかけてくれたのかな、と携帯を探し手を動かしていれば、何か人の手のような物に触れる。
恐る恐る見れば真っ暗な部屋の中石垣君が笑みを浮かべおはようさん、と言ってきたので悲鳴を上げて枕をぶん投げた。
『お、お化けや!!』
「俺や、石垣や」
『石垣君のお化けや!!』
「ちゃうよ、本物や」
『……』
「ほら、足あるやろ?」
石垣君は枕を持ったまま自分の足を指さしている。
「部活終わって様子見に来たら寝とったから起きるの待ってたんや」
『変態や』
「な、何もしてへんよ」
『私の寝顔見とった、オカズにする気や』
「……せんよ」
『その間は何やの』
呆れつつもリモコンで部屋の電気をつければ、制服姿のまま石垣君が私の枕を抱きしめて居る。
石垣君から枕を取って背中に隠し、じっと石垣君の目を見れば、徐々にその顔は赤くなって行く。
『プクク、何照れてるん?』
「しゃ、しゃあないやろ」
『なんでやろうか? ああ、そうやね、石垣君、私の事好きなんやっけ?』
ニッ、と笑いかければ石垣君は顔を赤くしながらも真面目な顔でそうや、と囁いた。
「ずっと昔から御堂筋が好きやった」
余りにも真剣な顔に恥ずかしくなって、視線を逸らして下を俯いて自分の指を握りしめる。
『な、なんで私なんか、別にかいらしくないし、ええ子やないし、そ、それに』
「御堂筋はかいらしいで、それにええ子やし、優しい子や」
『い、石垣君が変なんや』
「変やないよ」
『……』
「御堂筋は俺の事どう思ってくれてるん?」
石垣君の言葉に逸らしていた視線を戻し、ちゃんと石垣君の目を見た。
『石垣君と居ると心臓ぽかぽかするし煩くもなる、ずっと頭の中に石垣君が居る、最初何でか分からんかった、でも、分かった、私も石垣君が好きやからや、私も石垣君が好き』
目を見てちゃんと自分の気持ちを伝えれば、石垣君はぼろぼろ泣き出す。
『ピッ! な、なんで泣くんや、そ、そないに嫌やったん?』
「そ、そうやないよ、嬉しゅうて」
『やからって泣かんでや、乙女か』
「やって、御堂筋も俺を好きで居てくれた思わんくて」
泣いている石垣君を見て、おろおろしながら近くにあったティッシュを取って渡す。
『泣き止み』
「無理や」
『ふつう逆なんやけど』
「俺かてそう思う」
ティッシュで涙を拭う石垣君を数秒見つめ、仕方ないので近寄って手を退ける。
そして顔を近づけ、べろっと涙を舐めれば石垣君は目を見開き涙が止まった。
『止まったな』
「…別のが出るかと思うた」
『別の?』
「鼻血や」
『出とらんし涙も引っ込んだやろ』
「そうやな」
まだ少し残っている涙の痕をティッシュで拭ってあげ、指を掴む。
『私も石垣君が好きや』
「いつから好きになってくれたん?」
『気づいたんは夏休み、家に押しかけて来た日やな』
「……」
『気づいとらんだけで、もう少し前からは好きやったと思うで、多分、四月頃からは気になってたんやろうな、ずっと頭の中に石垣君居ったし』
「……死ぬほど嬉しいな」
『逆に石垣君はいつからなん?』
「俺? 一年の時に話しかけた日あったやろ?」
『あー、んー、いつや?』
「マネージャーせえへんかって言うた日」
『ああ、あったあった、鬱陶しい思うた』
「その前の日からずっとやで」
石垣君の発言に驚けば、一応俺なりにアピールしてたんやけど、御堂筋全然気づいてくれんかった、と照れたように笑う。
全く気付かなかった、その頃から私を好きで居てくれた事もアピールしていたことも。
『何で話したこともないのに』
「入学式からかいらしい子やなとは思うてたんや、けど、話しかける前の日、自転車乗ってる姿見て、凄い早くて、綺麗で見惚れたんよ」
『……』
「もっと色々御堂筋の事知りたくなって話しかけたけど、むっちゃ嫌そうな顔されて、死ぬほどショックやった」
『ご、ごめんな』
「ええよ、やけど、安さんが御堂筋にマネージャーやってくれへんか言うて、安さんも御堂筋に気あるんやろうな思うたから、なんとかせな思うて、むっちゃ話しかけた」
『……』
「最初は無視されとったけど」
『そうやな、ほんま最初はうざったかった、男子はあまり好きやなかったからな、やけど、ああやって話しかけてくれんかったら、好きにならんかった』
どんなに冷たい態度をしても無視をしても見捨てないで居てくれたから、私は石垣君を好きになれた。
それがどういう事なのか知らなかった私に教えてくれたのは石垣君で、石垣君が教えてくれたから私は幸福で満たされているのだろう。
『石垣君が全部教えてくれたんよ、人を好きになるんがどんなか』
「どんなやった?」
『嬉しゅうて、幸せで、泣きそうや』
そう言うと石垣君は両手を広げ私を抱きしめてくれ、胸に顔を埋める。
『私はまだ全部知ってるわけやない、これからも色々教えて欲しい』
「俺がわかる範囲で教えるし、分からん事は二人で考えて行こう」
『うん、そないしよう』
「御堂筋」
『ん?』
「俺と付き合て下さい」
『よろしゅうお願いします』
二人で笑い合ってぎゅうっと抱きしめた。
私は恋愛をしてこなかったからこれからどうして行けばいいのかもよく分からない。
けど、これからは横に石垣君が一緒に居てくれるから、心配ない。
石垣君が教えてくれるし、分からない事は二人で考えて行けばいい。
ああ、大好きな赤色が目の前に広がっていた。
**********
そこから石垣君の横に座りなおし、石垣君がしてくれたアピールを聞く。
まず好きな子の特徴は誰が聞いても私と分かるように言ったらしいが、私は全く気付かなかった。
「やから、安さんが言うた日御堂筋の髪長くてさらさらやな、言うてたんよ」
『言うてた!』
「気づいとらんかったけどな」
『全く気付かんかった』
他にも体育祭当日迎え来たのもそうだし、守るって言ったのもそうだったらしい。
アピールだったのは気づかなかったが、どきどきしたのは確かだ。
学校で私と石垣君が付き合っていると噂が流れた時は、死ぬほど嬉しかったらしい。
他にも聞けば確かにしてたな、という事ばかりで、気づかなかったことにもう訳ないと思うくらいだった。
「まあ、日野と月野は気づいとったから、協力してくれたみたいやけど」
『え!? そうなん?』
「夏祭りの時はそうやと思うで」
『気づかんかった』
「やって、小学校から毎年行ってたんやろ?」
『そうや、けど、彼氏おったらしゃあないやろ』
「いつから彼氏おったん?」
『んー、中二から夜はおったな、朝日は中三から』
「その頃からおったのに、高校二年で急に彼氏と行く、いうなんて可笑しいやろ?」
驚いて石垣君を見れば、顔を隠す。
「そういうとこむっちゃかいらしい」
『かいらしくないやろ』
「かいらしい、頭ええのに恋愛に関しては分からんとことかほんま好き」
『や、やかましい』
石垣君の肩を叩けばいてっ、と囁き顔から手を退かし笑う。
「やけど、これからは俺が教えたるから」
『自分で勉強して見返したる』
「そら楽しみやな」
『その顔腹立つな』
石垣君の顔に腹が立ったので、軽く頬を抓ってから手を離した。
『あ、せや石垣君』
「ん?」
『一個約束守れそうにないで』
「なんの約束や?」
『自転車で出かける話や』
「ああ、別にええよ、もう何時でも行けるしな」
『私は……今月行きたかったけどな、まあ、しゃあないな』
「…来年行けばええし、足直ったら御堂筋の好きなとこどこでも一緒に行ったるよ」
『んー、ほんなら考えとくな』
別に石垣君と行くなら何処でもいいけど、何かいい場所がないか考えよう。
折角お互い好きと分かって一緒に出掛けられるのだから、思い出に残る場所に行きたい。
こういうのは夜と朝日に相談するに限るので、明日にでも相談しよう。
「あ、あかん、母ちゃんから連絡来とる」
石垣君が携帯を見て居て私も自分の携帯を見ればもう八時になりそうで、夜ご飯の時間だ。
『もう遅い時間やもんね』
「連絡いれるの忘れとった」
『はよ連絡して帰った方がええんやない? 明日も学校やで』
「そうやな」
『私も夕飯の時間やし』
「ほな、帰るか」
ん、と返事をして立ち上がろうとしたら、石垣君が立ち上がり荷物を背負い私を抱き上げた。
『なっ』
「階段危ないやろ」
『松葉杖ある』
「ええからええから」
『帰り困るやろ』
「あ、そうやな」
石垣君は壁にかかっている松葉杖の前に行き、御堂筋持てるか? と言うのでそれを抱えれば石垣君は歩き出す。
下まで運んでもらい、左足だけサンダルを履いて門の前まで石垣君と行く。
『あれ、自転車どないしたん?』
「ん? ああ、置いて来た」
『ハア?』
「ロードじゃ無理やから部室に置いて来たんや」
『意味が分からん』
「こっちの話や、いっつも学校行く日って何時に家出てるん?」
『七時に出とる、明日はおばさんに送ってもらう予定や』
「分かった、ほな、また明日な」
『明日な、気を付けるんやで』
石垣君は笑って歩き出し、背中が見えなくなるまで見送った。
**********
翌日、お弁当と水筒をリュックに詰め込んでいれば携帯が鳴った。
見れば石垣君からの電話で出れば、着いたで、と言われる。
意味が分からず、携帯を肩で押さえつつ片方だけ靴を履いて、何言うとるん、と返しつつ玄関のドアを開けた。
「家やで!」
玄関の前には石垣君が居て、おはようさん、と爽やかな笑みを浮かべる。
『ハア!?』
「迎えに着たで」
『ハア!?』
「あら、石垣君やないの」
後ろからおばさんの声が聞こえ、振り返ればおばさんとおじさんが居た。
「おはようございます」
「おはようさん、もしかして迎え来てくれたん?」
「はい!」
「良かったなアキナちゃん」
『歩いて行けと?』
「ママチャリで来たで、俺が後ろ乗せてったるから」
『危ないやろ』
「絶対守るで」
『ハア』
ため息を吐いて、リュックを背負い立ち上がって松葉杖を持つ。
『おじさん、アッシー来たから車大丈夫や』
「そうみたいやな」
『ほな、行って来るな』
「気を付けてな、よろしゅうな石垣君」
「はい!」
石垣君はまた私を抱き上げほぼ諦め状態で、おばさん達に手を振って玄関を出た。
庭にあるママチャリの後ろに乗せてもらい、松葉杖を片手で抱える。
「行くで」
『転ばんでね』
「大丈夫やで」
自転車を漕ぎだしたので、松葉杖持って居ない方の腕を石垣君のお腹に回した。
昨日言って居たのはこのことだったのか、確かにロードじゃ二人乗り出来ない。
アホやな、と思いつつ私の頬は緩んでいて、石垣君の背中におでこをくっつけた。
学校について居たるとこから視線を感じるが全て無視して、駐輪場の前で止まったので降ろしてもらう。
石垣君が自転車を止めるのを待ってから、一緒に歩いて昇降口に行く。
上履きを片方だけ履き替えれば、石やんおはようさん、と井原君と辻君の声がした。
「おはようさん」
「うわ、御堂筋それどないしたん?」
『靭帯切った』
「ひえっ」
「大丈夫なんか?」
『一週間絶対安静やって』
「そうなんか、無茶せんようにな」
辻君の言葉に頷けば、石垣君が私から松葉杖とリュックを取って井原君に渡す。
「これ教室まで持ってってな」
「ええけど」
まさか、と思えば石垣君は私を抱き上げ、そのまま歩き出した。
『ほんまに勘弁してや』
「階段危ないやろ」
『まだ転んだ方がましやって思うとる』
「何ちゅうこと言うん」
石垣君は少し怒った顔しながらも階段を登って行き、私は両手で顔を隠す。
死ぬほど恥ずかしくて、本当にこれなら転んだ方がマシだと思うくらいだ。
その状態のまま三階まで上がったので、せめても廊下は自分で歩かせて、とお願いして降ろしてもらい井原君から松葉杖を受け取る。
『私はそないにドジやないから、もうええから』
「運動神経悪いやろ?」
『喧嘩売っとるん?』
「すまん」
『運動神経は悪いで、けどな階段くらいちゃんと降りれる』
「…昨日階段から落ちてそないなったのに?」
『と、兎に角、私は自分で出来るからなんもせんでええ』
そう言って歩き出せば、床に落ちて居た紙に足を滑らせた。
すかさず石垣君が支えてくれ、そのまま抱き上げられる。
「すまん、見てられん」
『殺してくれ』
「無理やな」
井原君が再び松葉杖を持ってくれ、結局教室までそのまま運ばれ椅子に座らせてもらい机に突っ伏す。
「み、御堂筋、松葉杖ここに置いとくからなリュックは机の横にかけるで」
手を上げれば井原君が窓に松葉杖をかけて置いてくれたようだ。
恥ずかしくて死にそうだけど、嫌だと思ってない自分が居て、寧ろ嬉しくて、感情が爆発しそうだ。
はあ、とため息を吐けば小さな声で嫌やった? と石垣君の声がした。
数秒悩んで顔を上げれば不安そうな顔をした石垣君が私を見ていたので、おでこをデコピンする。
『嫌やとは言うてへん、恥ずかしいだけや』
ベーっとやれば石垣君は安心したような顔をした。
「ああやっとけば、俺と御堂筋が付き合うとるって皆思うてくれるやろ?」
『やから?』
「変な虫つかんでええかな思うて」
『別に変な虫って』
「ほんまは皆に言いたいけど、御堂筋はそういうの好きやないやろうから」
『……』
「噂広まればええな思うて」
『別に……』
言ってもいいけど、なんだかまだ恥ずかしいから黙っておこう。
「ほんで、昨日の奴って誰なん?」
『教えてあげへんよ』
「どないして?」
『なんでやろうね』
自分じゃ気づいていないのだろうが、石垣君は今そいつを殺しそうな顔をしている。
笑っているけど、目が怒っていて、初めて石垣君は怒らせちゃダメなんだろうな、と思った。
言ったところでどうなるわけじゃないし、向こうからはもう関わってくる事ないだろうし、このまま放っておくのが一番だ。
「教えてや」
『嫌や』
絶対教えへん、と言っていれば教室のドアが開いて夜と朝日が来たのでおはようさん、と挨拶する。
二人も挨拶して前の席に座って振り返った。
「足大丈夫なん?」
「一週間は安静やろ?」
『大丈夫や、もう痛ないし』
「無茶したらあかんよ」
「なんかあったら言うんやで?」
『ありがとな』
お礼を伝えれば二人は頷いて、ほんで、とにやついて石垣君を見る。
「聞いたで」
「ようやっと付き合うたんやね、おめでとさん」
「おおきに」
「お互いに一年生の頃から好きやったもんな」
「みたいやな」
「はよ告白しろ思うてたけど、まあ、付き合うたならええか」
「そうやね」
「す、すまん」
「ええよ」
「やけど、アキナ泣かしたら許さへんから」
「ぼこぼこにするで」
二人の言葉に石垣君は絶対に泣かさへんし守るで、と返す。
凄く真剣な瞳に二人はなんだか安心したような顔して頷いた。
「石垣君になら任せてええ思う」
「アキナは恋愛には疎いから色々大変やと思うけどよろしゅうな」
「一緒に勉強して行こうって約束したんや、な?」
『うん、私よう分からんから』
「それがええね」
「幸せになるんやで」
『あんな、今な、むっちゃ幸せや、胸がぽかぽかしてるんよ、多分な初めて好きになったのが石垣君やからだと思う、やからきっとこれからも幸せやと思う』
な? と石垣君を見ればぼろぼろ泣いている。
「お、俺もむっちゃ幸せやっ」
背中を擦りながらハンカチを渡せばそれで涙を拭って、二人は呆れた顔をしていた。
「いや、石垣君が泣くんかい」
『泣き虫なんや』
「す、すまん」
『はいはい、泣き止み』
石垣君が泣き止んだと同時にチャイムが鳴って、数分して先生が来る。
「御堂筋、足大丈夫か?」
『大丈夫です』
「無茶すんなや」
『はーい』
そこから出席を取って先生の話を聞いてHRが終わった。
石垣君は井原君達のとこに行き、私は席で授業の準備をする。
教科書とノートを出していれば横に誰か来たので見れば、昨日の男でため息を吐く。
『なんや? 言うたやろ関わるなって』
「昨日お前が殴ったとこ痛いんやけど」
『やから?』
「責任取れ言うとるん」
『ハア? 自業自得やろ、何言うとるん? 頭おかしいんとちゃう』
あほらしい、と囁けば男は怒ったようで石垣君に聞こえない声で囁いて来た。
「やからお前は石やんの彼女になれないんや」
『……』
「可愛げないし、悪態ばっかりついとる、ほんま石やんの好きな奴と真逆や」
『それが?』
「石やんの事好きな癖に、強がるなや」
男の言葉に夜と朝日がお腹を抱え笑いだし、男は二人を見る。
「な、何笑ってるん」
「あははは、いや、なんでもあらへんよ」
「気にせんで」
『もうええやろ、くだらん、私には関わるな言うとるんよ』
「そんなんやから」
『…ハア、石垣君』
名前を呼べば石垣君が振り向いて笑いかけて来た。
「どないしたん?」
『こいつがな、石垣君の好きな子は私と真逆や、言うんやけど、可愛げないし、悪態ばっかりついとるって、石垣君の好きな子って誰やっけ? こいつに教えたげて』
「ええよ、俺が好きなんは御堂筋やで、かいらしいで、悪態つくとこも好きやし、ずっと御堂筋が好きやで」
『やって、石垣君が好きなんは私やって、真逆もくそもあらへんって、分かった?』
「な、なんでや石やん」
「なんで言われたもな、ずっと御堂筋好きやし、逆になんでお前は御堂筋の事悪く言うとるん?」
なあ? と言いながら石垣君はそいつの前に来て怒った顔をする。
『関わらんでくれれば言うつもりなかったんに、キミの自業自得や、昨日私に無理矢理キスしたんはそいつやで、そいつのでいで足痛くした』
「もうええよ、御堂筋」
『やけど、そいつのおかげで石垣君に電話したから、まあ、ほどほどにな、来年のインハイもあるんやし』
「そうやな、そうやった、ほな、あっちで俺と話そうな」
石垣君はそいつの腕を掴んで教室を出て行き、アホやな、と囁いた。
関わらないでくれれば本当に言うつもりなかったのに、自業自得だ。
なんて思って居れば、井原君が来て石やんと付き合うたんか!? と聞いてくる。
『大声出すなや』
「すまん、ほんでどうなんや?」
『……付き合うた』
「ほんま?」
『ウソついてどないするんや』
「うあぁあ、石やんついに言うたんか、よう付き合うたな」
『悪いん?』
「そうやなくて、御堂筋って恋愛に関してはドアホやったから」
『喧嘩売っとる?』
「石やんのアピールに全く気づい取らんかったし」
否定が出来ず無視すれば、井原君は自分の事のように嬉しそうに笑う。
「ほんま良かったな」
『……ありがとな』
「これ、俺の家宝なんやけど、プレゼントや」
えへへ、と照れながら何が雑誌を出したので受け取れば、エロ本だった。
俺の一番のお気に入りやで、とウィンクされたので石垣君の机にしまう。
『石垣君にあげるな』
「そないして」
なんて話していれば石垣君が戻って来て、井原君が退くと石垣君は席に座り私の手を握ってくる。
「もう話かけん約束したで」
『ほんなら良かった』
「俺が好きなんは御堂筋や、俺はほんまにかいらしい思うとるし、悪態ついてくるとこも好きや、全部好きやから」
『知っとる』
「また誰かに何か言われたりしたらおれに言うんやで、御堂筋は俺が守ったるから」
『約束な』
指切りしをして笑いあっていれば、夜がいつまで苗字で呼ぶん? と首を傾げた。
「もう付き合うとるんやから名前で呼ぶのが普通なんやない?」
『そうなん?』
「やと思うけど」
『へえ、やって』
「ほ、ほんなら、アキナ?」
『なんや光太郎君』
にっ、と笑えば石垣君は顔を隠してあかん、と囁く。
「死んでまう」
「まだ刺激が強すぎたみたいやな」
「石やん、名前呼ばれただけでそないなってたら今後どないするん?」
井原君の言葉に石垣君はきっと、色々な事を想像したのだろう。
だからなのか、熱さなのかは分からないが石垣君は鼻血を出し、すぐさまティッシュを渡す。
『大丈夫?』
「…情けないな」
『そないな事ないで、私もな石垣君に名前呼ばれてむっちゃ心臓どきどきしとるよ』
「……」
『やから同じや』
「はぁあああ、かいらしい、むっちゃ好き」
『知っとるで光太郎君』
石垣君は照れながらも嬉しそうに笑っていた。