追いかけてきた彼氏に手を振ってみせれば
背中に突き刺さる視線
自然と自分の口角が上がるのを感じた

あの人とよく似たこの子が
ワタシを睨む

なんでかな、ゾクゾクする

近づいてくる彼氏は
あの人と
ひいてはこの子とも正反対

褐色の肌
いきいきと光の踊る目
人を楽しませることに喜びを感じる感性
女への素朴なやさしみ

透き通るほど白い肌
沼の如き闇を抱えた冷え切った目
まことしやかな嘘をつき
人を翻弄する回転の速い頭
人を人とも思わぬ残虐さは
女だからと手加減されるはずもなく

出会う人の中にあの人を見出すのがクセになった
ワタシでさえ
彼にあの人を感じるコトはない
だからこそ大好きで
だからこそ愛しちゃいない
この矛盾、ワリと気に入ってる
今のところは、だけど

「あぁもう、君ホンマ足速いわ。いきなり走ったらびっくりするやん」

「ごめんごめん。こちら、甥の友人のマールヴォロ。ヴォロって呼んでる」

「こんちは」

「はじめまして」

二人の目にドラゴンよろしく火がチラついたのは
whoさんの気のせい(断)

「ヴォロ、彼氏のアニル。インドから留学中なんだ。」

「ボク、父親イギリス人なんで
ずっとこの国来たいとおもてたんですけど
2年前にやっと叶ったんですわ
来てすぐの右も左もわからんときに
whoにパブで会って
絵の話したらむっちゃ気がおうて…
今はUCLに通てます」

「…なぜマグルの大学に?」

いやー、さすが闇の帝王クオリティ
俺様の辞書に「遠慮」の文字はねえってやつ?
…身元調査はお断りだよ、バカ野郎!


「ああ、スンマセン。
コチラのお人がホグワーツを
大事にお考えなんはよう知ってますし、
ボクもたしかにええ学校やと思てます
そやけど、
ボクは美術を学びに来てますのや
魔法の使える使えんは
一旦、端においとかしてもろて
自分の作品の肥しになりそうなもんは
一通り学んで帰りたい、と
そないおもてます」

ニコニコとあくまで愛想良く
下手に出ては相手を丸め込む
天然でそういうコトできちゃうあたり
彼はやはり面白い

さすがに面食らったヴォルデモートくん
いや、ヴォロは
イヤミの一つも言えず、微笑んでいる
…ざまあみろ

はぁー、それにしても
外面だけ見りゃ眼福ですな
顔面偏差値ハーバードな、お二人による笑顔合戦
コレって写真にしちゃえば売れないかな?
一枚480円ってトコでどうだろ、、
なんて考えてれば、ヴォロと目があった

マズイ、歪んだ笑いが隠しきれない、、

バキッと足元から嫌な音が聞こえた
とっさにバランスをくずせば
思いがけない速さで彼が支えてくれた

「うわ!ヒール完全に折れてるやん。なんで?
コレ、この前おろしたやつよな?」

「あ、あははは、っその、今日、歩き過ぎたんじゃないかな?」
なんとか笑いつつ、ヴォロの顔を横目で見れば
微妙な満足の表情が浮かんでいた
…見てろよ

「やっぱり、家まで送ろか?」

「ん、ありがと
でもさ、、」

彼の肩につかまったまま
折れてない方の靴を手にとってヒールを握る
思い切り力を入れれば、バキリと音がなって
靴の高さはだいたい揃った
折ったヒールを放り投げ
焦らすように、ゆっくりと、それを履く
顔をあげ、ニヤリと笑った

「これぞ、ファッションでしょ」

ヴォロの眉がほんの少し上がる
この子なりの賞賛
勝った

「わかった」
一瞬、忘れていたアニルの存在
いつものほほ笑みを浮かべた彼
だがしかし、、

彼の腕が腰に巻きつけられる
力加減する余裕を失ったのか乱暴に腕が捕まれ、唇に噛みつかれる
珍しい、いや、二年付き合って初めてかもしれない
人前で彼がこういう行動にでたのは

よく知った唇の味
絡められる舌の感覚
肩の震えが止まらない
それでいて
かき氷でも食べたみたいに冷めた気分
ワタシと彼は薄っぺらくて心地良いセロハンテープでつながっていた
今それが、ベタベタしたガムテープになるのを感じる

満足したのか
彼が頭を反らし唇の上で囁いた

「ほな、また」

するりと支えが消えて
姿くらましの軽い音

振り向かなかった彼の顔は想像がつく
プライドを傷つけられた一握りの怒りと
ワタシの行動が理解できないゆえの哀しみ
彼はいつでも事件の被害者

きっと今追いかければ
黙って許してくれるだろう
それから全く関係ないバカ話をして
今日はワタシの家に泊まる

それだけ、それだけでうまく行く

知っていて
予想がついてしまうコトに退屈した自分が
加害者の行動が解ってもらえないコトに安心しつつ疲れた自分が
叫ぶ
彼とは全く異質
でもワタシにはそっくりな
この子から離れるな、と


I love you ,but I 'm not in love with you.
(好きだけど、好きじゃない)




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