午後から激しさを増し
降り続く雪のせいか
往来をゆく人の数は少し減った気がする

仕入れ先からの
商品の搬入が遅れるかもしれない
眉をひそめた彼が杖を振る
窓をせっせと磨いていた雑巾が
バケツに見事な飛び込みを披露したところで
電話がなった

軽いため息とともに受話器をとると
ボージン&バークスの文字がおどるドアの前で
人影が立ち止まる
カラリと入店を示す音がなり店の主人が帰ってきた

「おかえりなさいませ」

「ああ」

主人は無愛想に答えると上着を脱ぎつつ肩を回す

「あの男、契約など記憶にないとぬかしやがった。マルフォイ家の坊主が来なければしらを切るつもりだったのかもしれん」

「…今日仕入れ予定だった業者が明日の搬入ではどうかと申しておりますが、」

「かまわんさ。兎にも角にもあの泥棒男から品は取り返せたんだ。ふん、商品が届かなければいくらお前でもすることがないだろう。今日は帰るがいい。」

「ありがとうございます」

きりの良い所で片付け
薄暗い店を出た
雪の眩しさに目を瞬くと
ダイアゴン横丁に向かって歩き出す
一週間ほど前に知り合った
あの女の店がどれほどのものか
この目で見てやろうと思った

漏れ鍋から続く大通りを渡り
グリンゴッツ銀行の裏
赤い外観が目印だと聞かされた店は
そこにあった

落ち着いた深紅の外壁に
金色の筆記体で
All That Jazzの文字がおどる
思わず自らの瞳に手が伸びた
同じ紅
偶然だとしても気分は悪くない
その時だった
突然、肩に誰かの手が乗った
完全に消された気配
まともな人間のすることではない
舌打ちしつつ振り向き
杖を抜く

「Hi!お元気?」

…ああ、やはり
そこにいたのは世界一まともじゃない人間
whoだった

「元気だったさ」
ポケットに杖をしまって微笑む

「君が来るまではね」

「そりゃ良かった。で、キミはワタシの店の前で何してんの?はっ、まさかの女装趣味!?いや、全然気にしないけどね!むしろ似合う!」

「…確かに君の女装よりマシかもね」

「センセイ、この子、女装の意味間違ってると思いまーす。」

シルク素材のプルオーバー
その上で戯れるクリスタルやチュールの蝶
シンプルだが上質な紺のフレアスカート
首輪のようなチェーンネックレス
ワックスでありとあらゆる方向に立たせた黒髪
そこにピンで引かれた一本の白い線

アーティだが女性らしさも感じる
それは

「追いついた!」

きっと彼女の勝負服

息を弾ませやって来たのは若い男
おそらく、自分とそう変わらない

『誰、』
口の形でそう尋ねれば

『彼氏』
チェシャ猫のような笑みで答えが帰ってきた


A dog runs after a cat ,
and the cat after a mouce
(犬が猫を追いかけ、猫がネズミを追いかける)







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