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ヒノト室長の言葉に、掌の温度に、泣きそうになった。必死に我慢はしたけれど、ばれてたらどうしよう。
やわらかくわたしを撫でる室長の手が離れていく。
初日に触れられたときはびっくりした覚えしかなかったのに、今日はちょっとだけ違った。女だからこういうことするんだって思ってたあの時とはきっと違う。労る、褒める、なんだろう。なんと表現するべきなのかわからないけれど、わたしを受け入れてくれるというか、そういう、やさしい手つきだと、思った。
わたしはここでちゃんと認めてもらえるんだって、ちゃんと、わたしを見ててくれたんだ、って。ぐうっと心臓のあたりから、引っ張られてきたみたいに嬉しさがこみ上げてくる。ついでに涙も。がんばろうって、単純だけど、思ってしまった。ヒノト室長って、部下の扱いうまいんだ。さすがだなあって、にやけてしまいそうになる頬を必死にごまかした。
「ヒノト室長、」
「ん?」
わたしを撫でるために立ち上がってくださっていた室長の目の高さはわたしより高い。まだ潤んでいるような気もするけど、ちゃんと目と目を合わせて、一瞬飲み込みそうになった言葉をきちんと鮮明に、頭の中でなぞる。
「ありがとうございます、頑張ります」
そう言って、泣きそうに引きつった目元を緩めて笑って。
目の向きとか顔の向きとか、なんかデジャヴを感じるな、と思って、はたと気付く。昨日酔っぱらったヨルシカにさんざんやらされた上目遣いの練習のやつだ。あの子は酔っぱらうとタチが悪い。酔っぱらわなくても悪いけど。「ちがうもっと媚びて、首傾げて、かわいくまばたきして。そうそう可愛い写真撮っていい?」嫌がるわたしを散々付き合わせたスパルタ練習がまさか、身に着いてしまっているなんて。わたしもそんなとこ呑みこみ早くなくていいから。
でもまあそんな、パッと見たぐらいじゃ分かんないでしょ。上目遣いしてるどうこうとか、ヨルシカは「最高それがあれば男なんて即落ち」とか言ってたけどうるさいし。そうひとり胸の中でごちて、ヒノト室長から反応がないことに気付く。
「……室長?」
「…うん、さっきも言ったけど、無理はしないでね」
「はい!」
見上げた室長が優しく目を細めるから、わたしもつられて笑う。
昨日みたいに迷惑を掛けないように。ちゃんとするんだ。ヒノト室長への苦手意識も、ちょっと薄れたような気がする。もっとちゃんと、未事業部に貢献できるように。深呼吸して、気持ち新たに頑張ろうって、こっそり拳をつくった。
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