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控え目なノック音が耳に響いた。ドアの方に視線を向けるとそこには申し訳なさそうな顔をしたコトカちゃんがいた。室長室に入り、ゆっくりと…いや、おずおずといった感じで俺の前まで来るとコトカちゃんは深くお辞儀をした。

「昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

コトカちゃんはそう言ったまま顔を上げようとしない。
ああ、本当にコトカちゃんって真面目というか、肩の力を抜くのが上手くないというか、嘘をつけないというか。不器用、なんだね。

「体調はもう大丈夫?」
「はい。昨日ゆっくりと休ませて頂いたので熱も下がりました」

まだ、コトカちゃんの視線は床に向かったまま。何も悪くないのに、まるで全部自分が悪いみたいに思っているみたいで、それがつきん、と胸に痛みを走らせた。

「コトカちゃん、顔上げて」

肩がぴくっと小さく動いた後、少ししてからゆっくりと顔を上げてくれた。視線は合わせづらいのか長い睫毛を伏せている。

「もっと早く疲れが溜まっていることに気付いてあげられなくてごめんね」
「ヒノト室長が、」
「ううん、言わせて」

コトカちゃんはようやく視線を俺に向けてくれて、そのコトカちゃんの言葉を俺は遮った。
言おうとした言葉を飲み込んだコトカちゃんに俺は言葉を続けた。

「今回のは俺の管理能力不足。コトカちゃんが自分の仕事以外にも細かい所まで気を遣っていてくれたことに俺も、事業部の皆も気付いていなかった。異動したてのコトカちゃんに皆、知らないうちに助けられてたことに昨日やっと気付いたんだ」

例えばコピー用紙の補充やインクの入れ替え、使用頻度の高い物品の確認と発注、丁寧かつ分かりやすく書かれた相手先や他事業部からの伝言のメモ。会議がある時は誰よりも早く会議室に行って椅子やホワイトボード、会議に使用する資料などを準備していてくれたり。上げればきりがない。
昨日1日でコトカちゃんがどれだけ頑張ってくれていたのか、疲労を隠して笑って仕事してくれていたのか痛いほど分かった。なのに、それに気付けなかった自分が情けない。

「本当にごめんね。それから、ありがとう」
「え?」
「コトカちゃんが未事業部に来てくれて本当に良かった」
「っ、」
「これからもよろしくね。それから、今回みたいなこと繰り返さないように俺も気を付けるけど、コトカちゃんも無理しすぎないこと。勤務年数とか歳とか、そういうの関係なしにお互いにお互いをフォローしながらもっと仕事しやすい環境にしていこうね」

少し泣きそうな顔をしているコトカちゃん。
椅子から立ち上がり少し身を乗り出して、デスクの向かいにいるコトカちゃんの頭に手を伸ばしてそっとその頭を撫でた。

「もう1度言うね。コトカちゃん、ありがとう」

ふわふわな髪の毛。異動初日に触った時と変わらない感触なのに、その時とは何かが違うと心が訴えている。
けど、まだ俺はそれを言葉に出来なくてそっとコトカちゃんの髪の毛から手を離した。

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