三雲蓮
三門市人口28万人。ある日、この街に異世界への
「
此方の世界とは異なる
その時、突如現れた謎の一団が近界民を撃退しこう言った。「こいつらのことは任せてほしい」「我々はこの日のためにずっと備えてきた」近界民の技術を独自に研究し「こちら側」の世界を守るため戦う組織。界境防衛機関「ボーダー」。
彼らはわずかな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民に対する防衛体制を整えた。
それから4年。門は依然開いているにも拘わらず、三門市を出ていく人間は」驚くほど少なく、ボーダーへの信頼に因るものか。
多くの住人は時折届いてくる爆音や閃光に慣れてしまっていた……。
*
騒がしい教室の中で蓮は一人、窓辺の直ぐ側の席で読書を嗜んでいた。蓮の直ぐ側では、何時ものお決まりの意地悪な男子生徒三人組が、一人の背の低い男子生徒を揶揄いながら、彼の筆記用具を投げて遊んでいた。ところが運悪く。三人組の内の一人が投げた筆記用具を上手く受け止めきれず、コツンと小さな音を立てて蓮の頭上から筆記用具が落ちてきた。
「ぶははは。パス失敗」
「あんくらい取れよお前」
「返してよ〜」
悪びれた様子も無く、下品な笑い声を上げながら笑う男子生徒達を尻目に、蓮は読んでいた本を静かに閉じ、地面に落ちた筆記用具を拾う。
「おい、三雲。それこっちよこせ」
恐ろしい形相で此方を睨みつけるクラスメイトを何食わぬ顔で素通りし、蓮は筆記用具の持ち主である男子生徒へ筆記用具を渡す。
「あ、ありがとう」
涙目でお礼を言うクラスメイトを蓮は何も言わず、返事の代わりに頭を軽く下げ、自身の席へ戻ると先程閉じたばかりの読みかけの本を開き、また一人読書の世界へ入り込んだ。
「アイツ、何考えてるか分からねえよな」
「ああ……マジ冷めるは」
自身の直ぐ側で悪口を吐く男子世界達の言葉等、気にした様子は無く、蓮は本を読みながらぼんやり頭の中では違う事を考えていた。
「先生来ないんだけど」
「転校生の相手してるんじゃない?」
「あー」
クラスメイト達の会話へ耳を傾けながらも本のページを捲る手を止める事なく、読み続けていた。
「珍しいよな。三門に転校してくるって」
「転校していくなら分かるけどな。ボーダー関係者だったりして」
【ボーダー関係者……】
クラスメイトの口から何気なく出てきた単語に、本のページを捲る手がピタリ止まった。
*
辺り一辺に鳴り響く程のけたましい救急車のサイレン音。
「本当に平気? 体どこもおかしくない?」
「うん。へーき」
「いや、だって君……思いっきり撥ねられてたよ?」
「だいじょうぶだって、ケガなんかしてないって」
少年は服に付いた埃を払い「それよりも」凹んだ車と運転手の方へ視線を向けた。
「そっちこそいいの? 車凹んだけど」
「いやいや! 君が無事なら良いんだ! 君が無事なら!」
運転手は顔を青ざめながらも無理矢理口元を引き攣らせて、先程、車で引いてしまった少年へ向けて苦笑いを浮かべていた。
「念の為、書類を作りたいから名前と住所を教えてくれるかい?」
事故現場へ慌てて駆け付けてきた先程の警察官が救急隊と話を終えたのか、バインダーに挟んだ紙とペンを片手に少年へ詳しい話を聞きにやって来た。
「空閑遊真。クガ・ユーマ。住所……住所は、えーと」
警察官へ詳しい住所を伝え様とするも正確な住所が思い出せない空閑は口ごもってしまう。しかし、空閑の肩からひっそり姿を現した黒く謎の物体が口ごもる空閑を手助けするかの様に、静かに耳打ちをする。
『三門市麓台町3ー5ー1』
「みかどしろくだいちょうはちのごのいち」
しどろもどろになりながらもなんとか住所を伝え終わり、やっと警察官から解放された空閑は急いで学校へ向かう。
「いやー。日本も意外とキケンだなー」
『もう少し、周囲に気を配った方がいい』
彼の背後から現れた兎の形をしたロボットは厳しい口調で空閑を咎める。
『生身なら損傷していたのはユーマの方だっただろう』
「事故ったのはレプリカが急がせるからじゃん」
レプリカと呼ばれた兎型のロボットの説教じみた口煩さに、空閑は、形の良い唇を尖らせて不貞腐れた表情を浮かべる。
『急がせる理由を作ったのはユーマだ。概に、25分の遅刻』
「うぉ、やべぇ」
急いで階段を駆け上がり、空閑はレプリカの方へ視線を向ける。
「トリガー使っていい?」
『それを決めるのは私ではない。ユーマ自身だ』
「……じゃあやめとこう」
『私もそれが賢明だと思う』
「先に【基地】を見に行ったのは失敗だったなー。【学校】の後にすればよかった」
初登校で、しかも遅刻をしてまで、ボーダー基地を先に見に行ってしまった事を後悔するが、後悔先たつ。今更、後悔した所で遅刻した事実は変わらない。ならば、学校へ遅刻してしまった事を謝ろう。きっと心から謝罪をすれば学校の人達も理解してくれるだろう。空閑はレプリカから咎められながらも、できるだけ早く、急いで学校へ向かった。