降り止まぬ雨に全てを流して






三雲蓮



「空閑遊真です! 背は低いですが十五歳です! 遅れて申し訳ない」

クラスの教壇の前で元気良く挨拶と自己紹介する空閑を見て、蓮は、スウっと双眸を細める。あの子の身体、随分とツギハギだらけだ。あの子の身体うつわは傷一つない綺麗なものの筈なのだが、身体うつわの中の本当の魂は、酷く傷付き、損傷が激しい。そして、とても死に近い。けれども、彼自身に何ら変わりはなく、今も不思議と生きていて普通に生活をして居る。とても死に近い筈なのに。蓮は、目の前の彼が、何故、あの様な身体へ変わってしまったのかが気になるものの。「まあ、私には関係ない事か」直ぐに興味を無くし、空閑から視線を逸らし、蓮は窓の外から見える何処までも澄み渡る青い空を眺めた。

「空閑君は、最近まで外国に住んでいて日本に住むのは初めてだそうなので、皆助けて上げましょう」

担任の自己紹介でクラスメイト達の空閑へ対する関心が、どんどん強くなる一方で、転校して来たばかりでクラスメイト達の関心を一心に受ける空閑を気に食わないと思う男子生徒達も存在していた。それが、先ほど蓮へ絡んでいた男子生徒三人組だった。

「センセー。そいつ、指輪をつけてます! 校則違反じゃないんスかあー?」
「指輪……?」
「あら、本当。空閑君、アクセサリーはダメなのよ」

空から視線を外して男子生徒達の方へ視線を向ける。馬鹿三人組は、空閑を見詰めながら厭らし気な笑みを浮かべて、空閑が担任から叱られるのを今かと待ち構えて居た。なんて、嫌な奴らだ。蓮は静かに手を上げ、声が出せない代わりと、そっとメモ用紙を掲げる。

「先生、何か事情があるのではないのでしょうか? 指輪を外せない事情が……」
「事情……?」

転校生である空閑を助けた蓮が気に食わないのか、馬鹿三人組は、小さな声でぶつぶつ文句を口々に言うが蓮は相手をする事なく。また、それ以上に口を挟む事もせず、ぼんやり空を眺め始めた。

「……何なのかね。その指輪は」
「親の形見です」

ヤジを飛ばす生徒達を担任は「静かにしろ」咎める。

「……君ねえ。そんな出まかせが……」
「? 本当です。親の形見です」

本来ならば輝いて居る筈の瞳を淀ませ、感情が読み取れない無機質な瞳で見詰められた担任は、言い様の無い謎の恐怖へ包まれる。担任は、空閑から急いで視線を逸らし、逃げる様に、もう一人の担任である水沼を呼び出して教室から出て行った。

「空、そんなに見詰めてて面白い?」
「……?」
「どうも。よろしく」
「よろしく……?」

笑顔で手を差し伸べて握手を求める空閑の手をそっと握り返す。

「此れから、クラスメイトととしてよろしくな」
「此方こそ」

お互い挨拶を交わし、空閑は蓮の隣の席座り込むのと同時。勢い良く、クラスメイト達が空閑の席を囲う。今の時期、転校生が珍しいのか、みんな一斉に空閑へ話しかけて居る。すっかり彼は、クラスの人気ものだ。蓮は、クラスメイト達と話して居る空閑を静かに眺める。先程は関係ないとは思っては居たが、そうか。そう言う事だったのか。彼から感じる違和感の正体は。成程。彼の身体うつわがツギハギだらけなのは……彼も、誰かの願い・・によって生かされている。あの子と同じ様に。でも……そう考えていた直後、空閑の後頭部へ丸められた紙屑が投げつかれた。

「……?」

空閑は、一度。背後の席の方へ視線を向けるが特に気にした様子は無く、床に落ちた紙屑の方へ視線を向けるが興味が失せたのか直ぐに視線を逸す。しかし、空閑の様子を見逃さなかった馬鹿三人組は、空閑の関心があまり得られなかった事、自分達が想像して居た筈の反応が彼から得られなかった事で、半分八つ当たり目的で、馬鹿三人組は、空閑の後頭部へ紙屑を何発も投げつける。

「ねえ……」

今迄、馬鹿三人の事を相手する事なく無視して居た筈の空閑もいい加減、鬱陶しくなったのか、空閑は静かに席を立ち、小柄な身長で馬鹿三人組を見下ろす。

「なにこれ、どいうアレ?」
「なにこれだってよ」
「アイサツだよ。アイサツ。日本式歓迎のアイサツだ」
「ふーん」

床に転がる無数の丸まった紙屑を手に取ると、丸まった紙屑を更に小さく収縮し、馬鹿三人組の内の一人である茶髪の生徒の額へ向けて紙屑を投げ飛ばした。

「が……!!」

空閑の投げつけた紙屑が思いの外、威力が強かったのか、紙屑が額へ直撃した彼は、大きな音を立てて椅子ごと後ろへ倒れ込んだ。

「な……何してんだ。てめー!!」
「おや? あいさつでは?」

何食わぬ表情で言ってのけた空閑へ、茶髪の生徒は歯を食いしばり空閑の胸ぐらを強く掴む。

「なめてんのか? クソチビ!!」
「つまんないウソをつくね、オマエ。オレと仲良くなりたいのか?」
「アァ?」

何方が手を出しても可笑しくない雰囲気の中、クラスメイト達は、怯えた様子で二人の様子を多々遠くで眺めている事しか出来い。また、彼女自身もクラスメイト達同様。二人の喧嘩を止めようとはしなかった。



空閑と空閑へ絡む茶髪の生徒が睨み合う中、タイミング良く、先程、副担任から呼び出されていた担任が教室へ帰って来た。

「こら。みんな、授業中よ。席について」

担任の一声で二人の喧嘩が発展する事はなく、茶髪の生徒は舌打ちしながらも空閑の胸元から手を離すと、自身の先へ戻って行った。それと同時に、クラスメイト達も蜘蛛の子散らす見たく、自身の席へ戻っていった。