降り止まぬ雨に全てを流して

序章


寒い雨が降る日の事だった。無人となった家の屋根の下で雨宿りをし、雨が止むのを一人静かに待っていた。誰も、私を知らない世界。あの子の居ない世界は酷く寂しくて孤独だ。この世界で生きる意味が、私には何処にもない。降り止まない雨を淀んだ空を眺めて居た時、一人の軍服を着た傷のある男が、私の前に立ち止まった。

「お前も俺と同じ一人か……。お前も俺と一緒に来るか?」

男から差し伸べられた手を、ぼんやりと眺めた後、軈て男の方へ自ら手を差し伸べた。

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