封印された少年
遥か昔。まだ、妖と人が共存していた時代。とある、小さな村の集落は、一人の半妖の青年の行動で火の海と化していた。嘆き、逃げ惑う人々を半妖は、高らかな笑い声を上げて、空高く飛び上がる。
「はははっ。ざまみやがれ。貰っていくぜ、四魂の玉」
四魂の玉と呼ばれた首飾りを持って、一人森の中へ駆け込んでいった。これさえ、あれば。おれは、本物の妖怪に。半妖は、此れから自身が、本物の妖になれる事にほくそ笑んでいた。此れで、自分は、半端者と呼ばれる事なく……。
「犬夜叉!!」
「!」
凄いスピードで森の中を駆け上がって行く、半妖を一人の弓を持った装束に身を包む巫覡が、悲痛な声で半妖の名前を叫ぶ。そして、巫覡は持っていた弓を半妖に向けると半妖の胸へ向かって矢を射る。
「き……桔梗」
犬夜叉と呼ばれた青年は、胸に突き刺さる矢を見詰めた後、矢を射やった桔梗と呼ばれた巫覡を恨みがましい視線を向ける。
「てめぇ……よくも……」
霞む視界の中で、悲し気な表情を浮かべる桔梗を最後に犬夜叉は、静かに眠りに着いた。
木本で、今し方封印された犬夜叉の傍に転がる四魂の玉を、桔梗はそっと拾い上げる。
「四魂の玉……こんな物のために」
「お兄さま!!」
深傷を負った桔梗の側に、妹の楓が駆け寄る。
「桔梗様! ひでぇ傷だ……!」
犬夜叉を追いかけて来た村人達が、深傷を負った桔梗の存在に気づき、妹の楓同様、桔梗の側へ駆け寄る。
「お兄さま、早く手当を……」
「私は、もう助からない。だから、よいか、楓。これを……この四魂の玉を私の亡骸と共に燃やせ。二度と、再び悪しき者どもの手に渡らぬ様に」
最後の力を振り絞って、妹の楓に遺言を残すとそのまま地面へ倒れ込んだ。四魂の玉は……私があの世に持っていく。
*
1996年の東京。とある神社の境内の一室で、一人の白髪の老人……もとい、彼女の義理の祖父は、玉の着いたキーホルダーを蓮へ見せていた。
「四魂の玉?」
「うむ。これさえ、あれば。家内安全、商売繁盛」
「これ、売るの?」
「まあ、聞きなさい。蓮。そもそも、四魂の玉の由来は……。まあ、これは今度にして。蓮、明日は何の日か、覚えておるか?」
「?」
何の事を言っているのか分からないと頭を傾げる私に、祖父は優しい微笑みを浮かべて、自身の背後に隠してあった一つの綺麗にラッピングされている小包を私へ渡す。
「明日は、お前がこの家に来て10年目の日だろう?」
「プレゼント……?」
「1日、早いけどな……」
渡されたプレゼントのラッピングされた包装紙を丁寧に開け、小包の箱をそっと開ける。
「……何これ?」
箱の中に入って居たのは、水掻きの着いたミイラ化した手だった。
「幸福を呼ぶ、河童の手のミイラだ。そもそもの、由来は……」
河童の手のミイラの由来を長々話す、祖父の隣で蓮は、河童のミイラの手をじっと見詰めて居た。
「そして、だな……蓮?」
河童の手のミイラを見詰めたまま、微動だにしない蓮を見た祖父は、心配気な声音で彼女の名を呼ぶ。
「すまぬ、蓮。何時も、お前が私の話を黙って聞いてくれるから、ついつい調子に乗って話し込んでしまった。こんな話、若い年頃の女の子に話しても詰まらないよの」
申し訳ない表情を浮かべて謝る祖父を前で、蓮はゆっくり首を横に振る。
「おじいちゃんの話は詰まらなくなんて無いよ。何時も、おじいちゃんの話、聞いてて楽しいよ」
「気を使わなくても良いんじゃぞ? 嫌なら嫌とはっきり言っても良いじゃぞ」
「大丈夫だよ。プレゼント有難う。もう、そろそろ部屋に戻るね」
腰を上げて立ち上がり、祖父が居る部屋を出て、1人廊下を歩く。赤く染まった太陽が徐々に欠けて、綺麗な黄昏時を作る。雲のない西に登った太陽の名残りの赤さが残り、美しい夕空を作り上げている。この世界へ辿り着いて、早くも10年の月日が経った。また、日暮家に拾われて過ごして来た月日も同じくらいに経った。此処の人達は、本当に良い人達ばかりだ。
毎年、この月が近付くと誕生日でも無いのに、何時もプレゼントを用意してお祝いをしてくれる。「貴女と巡り会えた大切な日だから」と優しく微笑んで。本来ならば、この立場に貴女が居るはずだったのにね。とある一室の襖から覗く、仏壇に飾られた1人の美しい少女の写真。
「かごめ……貴女に拾われて、貴女に救われた恩を決して忘れない。貴女の代わりに、貴女が大切にした家族が幸せに包まれて旅立つ、その時まで見守っているよ」
私は、1人の少女の置いてある写真の部屋の襖を静かに閉めると、また廊下をゆっくり歩き始めた。
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