降り止まぬ雨に全てを流して


序章


数十年も前の事。何らかの衝撃で、殆どの力を失ったまま異世界へ辿り着いた。しんしんと降り積もる冷たい雪の上で、倒れ込む蓮を、ある一人の年端のいかない少年が助け、自身の家へと連れて帰った。
少年の名前は……小松。食材を愛し、食材から愛された不思議な少年。そんな彼の夢は、料理人になる事だった。愛する食材を調理し、自身の手で作った料理で人々を笑顔にするのだと……彼は、嬉しそうな声音で夢を語っていた。

「蓮さん。お願いです。僕の代わりに、僕が貴女に教えた料理で、人々に笑顔と幸せを届けて下さい……」

生まれ付き身体が丈夫じゃなかった彼は、病に馳せながらも蓮へ、自身の夢を託す。

「本当は、こんな事を君に告げるのは可笑しい事だと自分でもよく分かっているんです。だけど……僕に残された時間は、もう残り少ない……。どうか、僕の夢を叶えてくれませんか?」

蝕む病で酷くやつれていながらも、あの時出逢った時の様に、優しくて陽だまりの様な優しい笑みを浮かべる小松を前に、蓮は心の底から込み上げてくる何かを必死で抑えつけた。

「其れが……小松の願いなら……」

必死で紡がれたメモ用紙に書かれた蓮からの言葉に、小松は酷く安心し「よかった」嬉し涙を流した。

その2日後の事だった。食材を愛し、愛された小松と言う名の少年は。この世を旅たち帰らぬ人となった。

「小松……。私、絶対に貴方の夢を叶えて見せるから……」

彼から教わった料理で、彼の夢であり願いでもあった料理人に。貴方が愛した食材を活かした料理で、人々を笑顔と幸せを届ける。大好きな、貴方の為に……。









カメリアに咲く