自覚


嶺二視点

 ぼく達の関係は、言うなれば仲の良い友達だとは思う。
 あれからも定期的に連絡はして、予定が会えば会ってどこか出掛けたり遊んだり。サラちゃんはまだ車の免許も持ってなくて、お母さんも持ってないらしく家に車は無いからこうして車で出掛けることはあまりなくて、目を輝かせて車の窓越しに街を眺める姿を見てなんだか可愛いなって思ったのは、本心だ。

 その日も、ぼくの運転する車でお出かけをしていた。
 お互いの近況や、他愛もない話題からくだらない話で盛り上がっていると、一つののぼりにサラちゃんが注目した。

「わ、バレンタインフェアだって。あそこのチョコレート美味しそう」

 二月上旬。街はすっかりバレンタイン一色で、かく言うぼくもバレンタイン関連の仕事も何件か来ていたところだ。
 チョコレートが好き、と言っていたサラちゃんは至る所でバレンタインという文字に釘付けになっており、この時期限定の街の雰囲気をすっかり楽しんでいた。

 バレンタインとは言っても、ぼく自身甘いものをそこまで食べる方でもない。事務所では最近チョコの受け取りを制限しているのもあって、正直仕事での関わりぐらいしか無かった。
 それでも日本では本来、女の子が男の子に想いと一緒にチョコレートを渡すのが主流で、ぼくも小学校の頃とかよく貰ってたな〜なんて思い出す。

「サラちゃんは、誰かに本命チョコとか渡すの?」

 その質問に、他意はない……つもりだった。多分。
 ぼくの問いかけにサラちゃんは、明るく笑って答える。

「いや渡す人いないよ」
「そうなの? サラちゃんぐらい可愛い子なら、素敵な男性とか身近にいそうなのに」
「なんそれ」

 その口説き文句は、半分本気で半分冗談だ。
 こういう距離を縮めるような言葉は、別に吐くのが始めてって訳でもない。それはもちろん、サラちゃんに限った話じゃなくて。
 軽いという自覚はある。でも、誰とでも仲良くしたいという気持ちも事実だが、かと言ってそれ以上踏み込むつもりは無かった。過去のことがあって、特別な誰かを作りたくなくて一定の距離を誰とでも保ってきた。もはやひとつの本能で、こういうことを言うのはもはやクセなのだと思う。

「チョコレートよりも、サラちゃんの方がずっと甘くて魅力的だと思うよ」
「……嶺二ってさぁ……」

 そのサラちゃんの言葉の続きに、思わず、違う意味でドキッとしてしまった。

「そういうセリフ、よく平気な顔して言えるよね。誰にでもそうやって言ってるんでしょ?」

 そう言うサラちゃんの表情は別に傷付いたとか真面目な顔とかじゃなくて、明るい表情を浮かべたままで冗談じみた感じだった。
 もちろん、それは事実だし実際のぼくのイメージ通りではある。しかしここまでこうもバッサリ切り捨てられるとは思わなかった。

「そんなことないよ〜。サラちゃんだけ、と・く・べ・つ☆」
「どうだか。軽い男は信用ならないからなぁ〜」

 ああ、そう言えば……と言って軽く流して違う話題に切り替えるサラちゃんだけど、ぼくの心はまだ置いてかれたままだった。

 別に、相手を困らせたり大した反応を貰えないなんてことは今までも沢山あったのに。なんでどうしても、サラちゃん相手だとこうも気になってしまうのだろう。
 ぼくの言葉に、サラちゃんはいつも軽く受け流して、全然なびく様子はない。一人でも、友達と一緒にいる時でも楽しそうに過ごす彼女の様子に、しっかりしているなあと思うと同時に、ぼくがいなくても平気なのかなとか勝手に弱気になってしまう。……別に何も、彼氏って訳でもないのに。

 この子に、ぼくの上っ面な言葉は通じない。
 真っ直ぐな彼女には、本気で向き合わなければその心に触れることすら許されない。

 そう思ったときに、特別な誰かを作ろうともしなかったぼくはどこに行ったのだろうと思う。親友を……愛音を失って、もう大切な誰かを失うという傷を負いたくないと思って、誰にでもそうしてきたのに。なぜ、こうもサラちゃんを追いかけてしまうのだろう。

 ――多分きっと、好きになっちゃったんだろうなぁ。
 小さい頃サラちゃんに出会って、それからずっと覚えていたのもきっと初恋で、今こうして再会して関係を繋ぎ止めているのだって、サラちゃんを離したくないから。

 それでも、踏み出す勇気はなかった。
 ここで告白をしたとして、サラちゃんに受け入れて貰える自信はない。変に関係を壊してまた失ってしまうより、このまま友達という立場を維持してそばに居続けられるのなら、それでいいと思ってしまった。

(……つくづく、ズルい男だなぁ、ぼく)

 助手席で楽しそうに話すサラちゃんの話に耳を傾ける。
 どうか、ぼくが勇気を出すよりも前に、サラちゃんの前に素敵な王子様が現れないようにと、願うばかりだ。




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