平和に行きましょう。

おにちゃんとざっとさん


 雑渡に寄越された奇妙な「それ」は、思ったよりもすんなり人の中に溶け込んでいた。
 飯炊きを頼めばそこそこ美味い物を用意するし、包帯を取った雑渡の体に物怖じすることもなければ顔色一つ変えることもない。木偶の坊かと思えば予想外に有能だった。しかし、力も知恵も人間のそれを遥かに上回るくせに、使い方はやはり下手くそらしい。なんたって雑渡に扱き使われているくらいだ。こんなのが地獄の獄卒だとは到底思えないし、よしんば本当だとしても思ったより緩そうだとさえ思える。
「やぁ、だってさぁ。組頭さんより、もっっっっとおっかなくて、怖ぁい同僚の世話、云1000年か焼いてたら、別にどってとこないからなぁ」
 素手で捕まえたという猪の肉をつつきながら、榴がこともなげに言う。話に度々出てくる「同僚」は余程榴にとっては恐ろしい鬼らしい。
「そいつは私よりものぐさなのか?」
「ううん、ものぐさではないの。ちっちゃな頃とかも、自分で洞穴を広げて家にしたりさあ。無茶苦茶やるんだもんで、一緒にやる内に色々身についたの」
「親はいなかったのか」
「んえぇ?組頭んちにも、いないじゃん」
「ぼくにはいたはずなんだけどなぁ」


「ぼくだってね、下積み時代ご飯作ったり、拷問用具研いだり、刑場のお掃除したり、色々やってるんだよう」
「獄卒由来の家事って私もしかしてめちゃくちゃレアな経験してる?」
「してるしてるー」
「私の火傷跡みても平気なのは?」
「地獄でもっとえげつない拷問してるからー。えへへ、言うならね、多分その火傷負った時の激痛諸々が100年以上続くのとかザラ」



「ああして見ると、本当に子どもと同じですね」
 尊奈門が見ている先には、里の子等に混じって手遊びや鬼ごっこをしている榴がいた。本物の鬼が鬼ごっことはこれ如何に。
「小鬼だと、子どもの見た目のまま大人になるらしいぞ」
「へぇ。組頭、あの者と仲がよろしいのですね」
「あれがアホなだけだ。あいつが地獄を取り仕切る側の鬼とは到底思えん」
 あ、転けた。と思えば榴は泥のついた顔でひひひと笑う。里の子どももその姿に腹を抱えて笑い出す。そのまま榴が追い掛けるふりをすれば、きゃあきゃあと更に大きな笑い声をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そしてまた始まる鬼ごっこ。
 至極平和で、呑気な昼下がりだ。雑事を片付けようとしていた雑渡の手も止まり、窓の向こうに見える外の風景を眺めながら嘆息した。こころなしか、ほかの者まで微笑ましそうに和んでいる。
「あれに1度、何がそんなに楽しいのか聞いたが…なんと言ったと思う、尊奈門」
 部屋の掃除をしていた尊奈門は、手を止めずに「ええ?」と首を傾げた。榴という人のような鬼が、うっかり事故で人の世に来て、とても楽しいこと。せめて大男や物の怪ならば「酒!女!金!」で分かりやすいのに、と思っても仕方がない。
「…んー、飯が美味い…とかですか?あの世とこの世だったら、食べ物が違うとか」
「お前らしい」
 雑渡の声に笑いが含まれていたことに尊奈門は縮こまる。仕事中に忍者食に夢中になって潜入がバレたことは未だに引きづられている。
「正解は、こんな休みが1000年ぶり、だからだそうだ。ついでにこの世の太陽を浴びたのも」
「せんっ…?」
「榴のような奴が働き詰めとは、地獄も大変らしい」
「…そもそも、1000年生きるってどんなのでしょうね」
「さぁ」
































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