平和に行きましょう。
でかい
榴は、図体の大きな奴が苦手です。
いつまでもチビな榴をいじめたり、からかって遊ぼうとするからです。大体は一緒にいる鬼灯という友達が揶揄うそいつをぶん殴って黙らせるので困ることはありませんが、いつまでも友達を頼っていては榴も強くなれません。体が大きい、ただそれだけで馬鹿にされたり偉そうぶられるのが面白い訳もなく。
「ほーずき!ぼくが戦うとしたら、どんなのがいいかな?」
「貴方は正当法では勝てません。殺るなら搦手、つまり罠です」
幸い榴の友達、鬼灯は強いだけでなく賢い鬼でした。シュッ!シュッ!と鋭い目潰しを繰り出す腕は、ジャンケンと見せかけて相手の視界を奪い殴打に次ぐ殴打を繰り出す殺意満点の動きでしたが、自他ともに認めるアホの榴にはなんとなく格好良い動きに見えます。
「いいですか、貴方はどこからどう見ても人畜無害の珍百景ばりの生き物ですが、逆に言えば相手の油断を大いに誘います」
「わぁい」
「もし目の前まで迫られたら人体のココとココを突きなさい!届く範囲の急所は的確に!捩じ込め!」
「うおおおお」
「言葉も攻撃の一つです。例えば“チビ”!」
「お前のそっくりさん白澤ー…さま!」
「あれに会ったら?」
「目潰し!」
「更に!」
「「目潰し!」」
「よし!」
「うおー!」
離れないで、離れないよ
離れちゃいや、待っていて
唄?いいや、これは縋る声だ。子が哀れに泣く声だ。
掠れた視界には、砂利混じりの土や伸び腐った草木が見える。とうとう捨て置かれたかと思い当たるが、様子がおかしい。着物は洗われて綺麗だし、包帯も巻かれたばかりのように清潔だ。
それに、やけに体が軽い。気絶同然に眠る前は、全身が焼け付き、おぞましい肌の渇水感による激痛だったというのに、嘘のように痛みがない。あの、死を望んだ苦痛から解き放たれた体は起き上がるのも簡単だった。だが、包帯の隙間から見える皮膚は相変わらず醜い。
「おっと…」
衰えた脚は、支えることすらおぼつかなくなっていた。辛うじて近くの木に縋ってゆっくりと歩きながら、先程聞こえた声の出処を探る。素足に砂利が突き刺さるが、火傷の激痛を思えば蚊に等しい。無視して、茂みをかき分けながらゆっくりと歩いていくと、拓けた場所に出た。
澄んだ水が流れる沢の、ごく小さな段差がある滝の岩場に楽器を抱えた人影が見えた。
離れないで、離れないよ…
離れちゃいや…
「もし、そこの君…」
しまった、と思った時には遅かった。手元で手繰っていた弦楽器の音が耳障りな所で止まり、痛い静寂が訪れてしまった。
「邪魔をしてすまない。ここがどこかご存知か」
小さな人影は動かない。手を止めたということは、気付いているはずだ。
静かに見据えられている。試されているのだろうか?顔は笠によって見えないが、目がこちらを見ているのを確信する。
「あなた…」
人影が口を開いた。目深の笠をくぃと上げ、見せた顔は年若いよりも子どもだった。
「めっちゃ大怪我してるじゃないですかあ!」
「………。は?」
9年前雑渡と榴ちゃんの地獄交流会
生死さまよって絶賛臨死体験中の雑渡さんを、仕事抜け出して歌ってた榴ちゃんが見つけて保護する
「火傷にはお肉とお魚がいいんだよっ。あとね、あとね、じゃーん!」
「随分大きい卵だね。なんの鳥の卵?」
「脳吸い鳥の卵だよ!みんなは血の池で温泉卵にしたの食べるけど、それだと錆び臭いから、普通のお湯で温泉卵にしてみた!」
「わーありがたいねー」
榴により用意された食事は、大きな焼き魚と肉、根菜類を煮た雑炊、そして卵。確かに見るからに精が付く食材ばかりだった。脳吸い鳥とは文字面からして聞く気も失せるが、割ってみた黄身は濃厚そうで美味そうではある。親切心でその鬼用を持ってこないだけ、榴の優しさだろう。
「見た目の割に賢いんだよなぁ」
「えー、何の話?」
衣食住の恩人に対する物言いではないが、榴への遠慮と容赦は既に薄い。底抜けの阿呆ではないが、この尽くしたがる気性はやや不気味でさえある。本人が善性の性格であるから致命的でないが、普通はここまでするものではない。
「アレに情が湧いたなら、さっさと離れてやることです」
「あの子が鬼で、私が生者だから?」
「そこは大した理由ではありません。貴方と暮らし始めても榴の仕事ぶりはさして変わりませんし、変わるようなら私手ずからアレに制裁下してちゃっちゃと引き離してますよ」
「過保護だね」
「効率の問題です」
「じゃ、私にやたら懐いてるのに理由があるのか」
「榴は、貴方をご尊父のように思っているようですよ」
「はぁ?何もしてないのに?」
「目が似ています。あと背丈も。アレからすれば、理由はそれだけで十分過ぎます」
普段しない定時帰りも。粗食で十分だという少食家が毎日大量の食材を買い込むのも。
「榴のご尊父は火で亡くなりました。父親の生まれ変わりが人間になって自分の所にきたと思い込んでいる」
惨いなぁ、と誰に言うわけだもなく吐露する。やはり地獄は地獄か。
「いいんですか、ぼやぼやしてると本当に亡者になりますよ」
「それは、私が毎日食べてる飯」
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