平和に行きましょう。
かみよめさん
一目見た時から、この娘を貶めなければ、という使命感に駆られた。愛くるしいばかりのかの娘は、親を亡くした不幸な境遇にあったが、気丈に振る舞い、同情を跳ね除ける強さを持っていた。理に聡く、男よりも賢くあったのだ。あぁ、なら、この娘を更に不幸のどん底へと突き落とし、自分が愛でてやれたなら、どんな表情を浮かべることだろうか。
そんな娘を見て、自分はそんな欲に駆られた。とてもではないが、誰かに聞かせられるようなまともな考えではない。しかし、尚気丈に立ち上がるのだろうか?それとも、干上がった地に乞う水の如く甘受するのだろうか?どちらでも良い。ただただ、可愛らしい娘を自分なりの方法で愛でたい。そんな欲だけが日に日に増して行った。
唯一の肉親である兄から離し、また神託として村の衆共に娘の両足首を斬るよう唆した。独りに震える彼女へ女共が手前勝手に衣装と化粧を施していき、そうして初夜に向けて花嫁が仕立て上げられて行く。
厳かに執り行われる儀式の中で、娘がようやく待ちくたびれたこちらの元へやって来る。神体のある本堂にて、四方に置かれた蝋燭のみが頼りなく灯す室内で、一式の布団の上に娘が女共により据え置かれた。本堂へ立ち入る際、足を喪った娘を運ぶ役目として媼に近い女共となった。初夜を迎える女を男が触れるのは穢れだと、昔適当に言ったことが予想外にも浸透したらしい。
女共を最後に、本堂の扉は閉じられる。見張りとして男が一人外に着くが、それ以外は無人である。
「…………」
娘の顔は蒼白だ。重い衣装に包まれ、麝香の香りを微かにさせる姿は一目見た時よりも数段美しい。
「震えているのか」
「……震えてなど、おりません」
突如現れ、己を押し倒した男を見て絶叫しない女など、一体この世でどれ程いるのだろうか?それどころか、睨み付けてくるではないか。人の男であれば粛々と従う女も、相手が神となれば勝手は変わるらしい。
「君が小さな頃から見ていたよ。御母堂に連れられて、僕に神酒を注いでくれた姿を見て、それから今日まで君のことしか考えられなくなってしまった」
「そして、私の足を切り落とせと命ぜられたのですか」
ただの棒のようになった脚の傷痕は未だ癒えてはいない。用意し得る限り最上の傷薬と包帯により丁寧に治療されたのは、村の罪悪感と哀れみといった仏心のようなものだろう。しかし切り落とさなければ、この娘が不幸にならない…筈だった。
「君は怖がらないのか」
「恐れる理由など、ありませぬ」
「へぇ、不思議だ」
肉親から離れ、足を切り落とされ、逃げることも叶わず人身御供として神嫁になる。そして暗闇の部屋で、得体の知れない存在と独りで対峙する。怒るでもなく、泣きわめくでもなく、淡々と娘は己を保って
いた。
「その自我、何年ともつかな」
くったりと肩口へ頭を預ける娘へ唇を寄せる。上気した頬や汗ばんだ額には愛らしさしか感じない。あぁ、これ程悦いものだったとは。
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