平和に行きましょう。

くろい


 じゅわ、と黒い何かが額から漏れ出るのを見ながら、ゆっくりと起き上がる。どうやらまた「死んだ」らしい。特に不具合はないが、衝撃を受けて脳が潰れた感覚は慣れてくると感じ取れてしまい、微妙に気持ち悪い。
「行動がワンパターン、正面切って殺そうって思わない方がいい。君、隠密の方がはるかに動けるんだから、基本的に表に出てきちゃ駄目だよ」
 なるほど、とサラは頷いた。ただでさえ銃の反動で肩を痛めるのだから、男のように軽々と扱えるのは10年以上先の話だ。出来上がっていない子どもの身体は、どうやっても劣る面が大きすぎる。
「あ、でも少年兵みたいな戦い方みたいだよね。彼らは基本的に死ぬことが前提みたいな所あるし」
「………実際、子どもなので」
亜人・・のね」



「田中ってさあ」
「なんだよ」
 このクソガキ相手に敬いや礼儀を問うのはとっくに諦めている。世の中に揉まれて擦れたサラは、耳にピアスやイヤーカフをこれでもかと着けながら、どこから取ったのか(大方高橋かゲンからパクったのだろう)タバコに火を付けて慣れたふうに煙を吐いていた。
「最近僕に口煩くなったよね」
「当たり前だろうが。ガキがぱかぱかタバコ吸うもんじゃねえだろ」
「初対面の頃とかすげー興味なさそうだったのに」
「…あの頃は俺もいっぱいいっぱいだったんだよ」
「あっそ」
「お前あの馬鹿みてぇにデカい穴開けるピアスはどうしたんだ?」
「あれ?佐藤さんの趣味」
 死ぬ程どうでもいい情報を聞かされて更に項垂れる。だが、サラの手網を握っているのも、握るのを許されているのも佐藤だけだ。他の誰にもタメ口を聞くクソガキとはいえ、彼にだけは恭順な態度を崩さない。
「別にさあ、体の心配してくれんのいいけど、邪魔しないでくんない?」
 知ってるんだぞ、とサラは歯を剥き出しにして笑う。
「佐藤さんに、僕の作戦参加やめさせるように言ってただろ。奥山みたいに後方支援させろってさ」
「聞いてたのかよ」
「あの人、なんて答えた?」
「………」
「なぁ」
 1拍置いてため息を吐く。今更になって、ようやく怒らせているのだと気付いた。
「佐藤さんは、お前次第だって言ってたぜ」
 笑みが更に吊り上がった。中学生、高校生くらいの子どもが作る顔ではない。吸っていたタバコを握り潰しながら、サラは田中へ吐き捨てた。
「嘘吐き」



「田中くんがさ」
「…んぇ?何か言いました?」
「田中くんだよ」
「うっおビビった死角あったのか!はぁ、田中?」
「ダメだよ、こういうのは吹き抜けから踊り場狙わなきゃ。うん、田中くん。君のこと、奥山くんみたいな後方支援にさせるよう言ってくれないかって私に頼んできたんだけど、何か派手なミスでもしたの?」
「んぇえ?足引っ張った覚えないですよ。ヤク中の方が協調性なくてヤバいです。あれ、思考停止してますよ」
「高橋くん?うーん、真面目なパーティにだって空気和ませる役目は必要だよ」
「ふうん。それで、僕は後方支援行きですか」
「それはそれで困るよ。君がいた方が場が引っ掻き回されて面白いのに」
「よかったぁ…あっ死んだ。田中、最近アレですね」
「そうだね。合わなくなってきたね。前まで結構ノリノリだったのに」
「根がまともっていうか、お人好し過ぎ。テロリスト向きじゃない精神構造?」
「君も結構色々考えてるんだね。感心感心」
「一応貴方のツボは把握してるつもりです」
「そこで理解って言わない所が面白い」
「他人に対して理解なんて単語使う方がどうかしてる」





















 サラは佐藤にだけは逆らわないようにしている。出会った当初から数ヶ月の間、様々な地獄を見せられた結果だ。
 佐藤はそれらを教育、あるいは善意と遊び心からの躾だと言うだろうが、周りからすれば調教、洗脳にほかならない。
「いやぁ、でもさあ。実際、生活の面倒見てもらってるし…」
 隠れ家を転々としながら佐藤に付いて回る生活は、実の所は嫌いではない。不便は不便だが死ぬ程でもなし、生活面の我儘はわりとよく通る。訓練中は文字通り死ぬ程恐ろしい目に遭うが、拾われる以前より確実に個人単位で殺傷能力が上がったことを実感しているので決してマイナスではない。




「断頭されたんだよね。一回、マジで首へし折られて、鉈で一刀両断?起きたら、手に生首持っててさあ。いやほんと、吐いたよね。本気で怖かったし、多分あれ発狂してたんだろうなって思うよ。しかもさぁ、殺った張本人なのに、褒めてくるんだよ。おめでとうって」
「本当に生まれ変わったんだ。あの人のお陰で、僕は新しくなった。あ、ちなみにその断頭からしばらくしてから、もっかい断頭したんだよ。今度は“首から下”を新しくしないとって思ってさ。お願いしたら、割とあっさりOKしてもらって、胴体バラバラにしながら、時間かかったけど無事に全部……えっ、どうしたの、お兄さん。気分悪い?ふうん、そうなんだ。病気とか風邪になってもリセットできないもんね、お兄さんたち」
「それで、続きなんだけど。時間かかったけど、全部古い僕から全身新しくして、すごく軽くなったんだよ、気分が。今まで生きてきた中で、親から掛けられてたプレッシャーとか兄弟の視線とか友達の言葉とか、そんなの必要じゃなくなったし、荷が降りたんだ。そしたら、…うっわきったね!お兄さん大丈夫?僕の話より寝た方がいいよ?…あーあ、ほら、僕の水あげるからこれで口ゆすげば…あ、いい?ふうん」













兎山沙良
日本国籍
20××年6月24日下校時に○○県△町の山に入ったのクラスメイトが見たのを最後に行方不明となる。本人はこの時川で溺死し、それを帽子の男に目撃されたと供述。「死亡後」帽子の男に誘拐され、格闘術、射撃訓練などを教えられ、帽子の男主導で行われた大規模テロの最初期段階から関わっていた
1度兎山が抵抗した際抑え込んだ職員は、その後胸の痛みを訴え受診。検査により肋骨骨折が判明した。















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