平和に行きましょう。

肉叢そのに


 肉叢セレンは泣き虫だ。いつだってハンカチを持っていて、色濃く濡れる程泣いている。涙を流す理由は様々だが、大体「小石に躓いた」だの「シャーペン忘れた」だの「怖そうなおじさんに話し掛けられた」だの…至極どうでもいい理由ばかりで、日々人間として生きているのが奇跡のように思えてくるガラスの心の持ち主だった。
 それとセレンは、周りから無個性だと言われていた。何故なら彼女の見た目から察せられるような個性は発現していなかったし、本人の口から不可思議な現象が起こったことなど1度も聞かされたことがなかった。個性があったなら、無個性だと噂される妙な居心地の悪さを感じる必要なんて無いし、その頃の子どもは喋りたがりだから黙ることなんて基本的に出来ない。だから、何を言われても個性について押し黙るだけだったセレンは、無個性という子どもにとって無意識の、落ちこぼれのような烙印を押されるようになった。しかし、不思議なことにセレンは個性についてのからかい文句では、1度たりとも泣いたことはなかった。彼女のことが好きなクラスの男子に苛められたらすぐに泣くくせに。
「あんな、うち秘密にしとることあんねん」
「ほんまはな、無個性やないねん。皆が勝手にそう思っとるだけでな、ちゃんとうちにも個性あるんよ」
「でもな、お医者さんとおまわりさんがな、うちの個性、人に話したらめっちゃ悪い敵に狙われるって言うてん」
「せやから、お父さんとお母さんがわざと無個性ってことにしてん」
「これな、言うたの太志郎くんだけや」
 ゆったりとした区切りの口調はやけにのんびりしていたが、毎度のように目尻を赤く腫らしながら笑った顔は痛々しかった。




 































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