平和に行きましょう。

けんあく


 ギャラドスとミロカロスの仲は険悪ではないが、決して仲が良い訳でもない。何せ破壊と平和をそれぞれ象徴する真逆の性質を持つポケモン。エリスが2匹を進化前から根気強く育ててきた甲斐あっての現在の拮抗があると言って良い。
 色違い個体と呼ばれる赤いギャラドスは、特に野性時代を仲間のコイキング達から迫害され他のポケモンにも捕食されるか否かのギリギリの生活をしていたせいか、気性が物凄く荒い。逆にミロカロスは、ヒンバス時代から実家の池でぬくぬくと育ってきた個体で、言うなれば箱入り娘だ。気が合うわけが無い。
「なので、仕事でもこの2匹同時に出すのは本当にやめた方がいいと思います。間にボクがいてもギャラドスが暴れちゃうので」
「分かってはいたが…やっぱりか」




「ボクの好きな女性のタイプ?」
「エリスって女の子の方が好きって言ってたじゃん?でもその割に彼女作らないから、何かこだわりでもあんのかなって思ってさ」
「実際恋人になって欲しいなぁって女の子はいるよ。ボクだって男だし」
「えっ意外」
「マリィちゃんがボク的には1番好き。負けん気が強くて、拗ねてる時とか振り回されるのが楽しい。あとニコってした時の顔がめちゃくちゃ可愛い」
「結構しっかり好きなんじゃん!えっ、告白とかはしないの?」
「それが振られてさ」
「行動が早いね」
「今ジムリーダー就任したばっかだし、スパイクタウン盛り上げていく途中だから恋人とかは今はいいってしっかりと言われたんだよ…」
「しっかりした子なんだ…。でもマリィちゃんってお兄さんがネズさんなんでしょ?そっちから攻めるのもアリだったんじゃない?」
「ボク、シーソーコンビ事件以来メリア共々避けられてるんですよ。トラブル持ち込んでくるから」





 ギャラドスを好んで使うのは容赦がないからだ。凶悪と知られ、1度怒れば町ひとつ滅ぶまで暴れ尽くすなんて話も聞くだけあり、トレーナーが傍にいようと関係がない。
「ギャラドス!丸ごと“焼き尽くせ”ぇぇえええ!!!」



 赤いギャラドスを連れたジムチャレンジャーなんて1人しかいない。
 黒いキャップを目深に被ってサングラスもかけた小柄なその人は、まだ育成途中なのだろうユキハミを膝に乗せながらターミナルのベンチで暇を潰していた。
「あの、ジムチャレンジャーのエリスさんですよね?」
「そうですよ」
「ど、どうして、あんな感じのバトルが出来るんですか…?」
「あんな感じ、というと」
 エリスさんはいまいち質問の意図を掴みきれないように首を傾げた。私も言葉が足りず、語尾があがって責めるようになった口調を改める。
「だって自分の周りも焼き尽くすなんて指示を出したら、物凄く危ないじゃないですか。エリスさんって身体あんまり強くないってインタビューで言ってたので」
「あぁ、そういうことですか」
 ジムチャレンジが始まると、最初の関門と言われるエンジンシティのカブを超えたチャレンジャーで1つの特集が組まれる。何故トレーナーになったのか、推薦者との話とか、愛着のあるポケモンのことだとか。エリスさんはチャンピオンが推薦した3名のうちの1人で、他の2人や委員長の推薦者と共に少しだけ多めにページの幅を取っていた。彼の顔が特に好みだったからよく見ていて、写真ついでに読んだ記事に確かに「少し体が弱くて、キャンプが苦手」なんて答えていたのを見ていた。
「ボク、ポケモンバトルになると興奮しちゃって。どうにもそういう所に気が回らないんです。」
「あぁ、いつも笑顔ですもんね」


 話しかけてきた誰かが駅を出ていったのを確認し、取っていた帽子を再度深く被る。サングラスと帽子を付けて顔を隠していたのだが、そんな奴にわざわざ話しかけてくる人がいるとは。
 エリスは貼り付けていた笑顔を真顔に戻した。猛烈にホップに会いたい気分だが、あのやけに偉そうなチャレンジャーに負けてからというもののポケモンについて四苦八苦して、とてもではないがキャンプ出来る雰囲気ではない。メリアは我が道をゆく典型で、今頃挑戦できるスタジアムを目指しチャレンジャーやトレーナーを薙ぎ倒しているに違いない。少なくともエリスが「合流しよう」と言っても「えーやだー」と一蹴するだろう。
「…ボクのことちゃんと昔から知ってる人と会いたい…」
 雑誌で見たから。テレビで見たから。チャレンジャーならサイン下さいだの写真撮ろうだのと声をかけられるようになって、応援される嬉しさの前に相手の自己顕示欲や下心を感じるようになってからは煩わしさが多くなった。


「ホップぅ…」
「…えっ?」
 見知った顔をした知らない美少女が泣きながら抱き着いてきた。
「ま、待ってほしいぞ!あっ、もしかしてエリスか!?」
「他に誰がいるんだよ馬鹿野郎…」
「髪の毛で雰囲気変わってたんだぞ!ただの女の子にしか見えなくてビックリした…」
 よくよく見れば木の葉や土汚れで、綺麗好きのエリスにしてはかなり珍しい姿だ。しかも精神的に弱りきって泣きつくなんてメリアの悪戯以外では滅多にない。
「知らない人にめちゃくちゃ知ったふうに話しかけられたり、変な人にポケモンの育成とか説教されたり、もうヤになって、ホップ探してワイルドエリアキャンプして回ってた…」
「そんなことしなくてもスマホで呼び出してくれて良かったんだぞ…?」
「だって忙しそうだったからああああ!!」
「変なとこで気にしいなのは変わらないなー」
 確かにビートに負けてから、兄に恥じないバトルを目指してポケモンを色々試して幼馴染たちと連絡を取っていなかった。だが、一言会いたいとなれば





























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