平和に行きましょう。
に
何百年も生きる魔法使い。
と聞いて、どのような雰囲気を想像するだろうか。沸騰する大鍋とかき混ぜ棒、あるいは古めかしい羊皮紙と羽根ペン、あからさまに怪しい本と植物。それらが揃った地下室に棲む腰の曲がった老婆……あたりだろうか。
「今時いないと思うよ、そんな魔法使い」
実在する魔法使いは、まな板の食材とともに夜行の想像を一刀両断した。
それにしたって、存在自体が眉唾の生き物が「そんな」呼ばわりするんじゃない。
「今時ってことは、昔はいたのか?」
「そりゃまぁ、需要と供給だからね。勿論完全に廃れて使わなくなった訳じゃないよ?今だって儀式する時に使う場合だってある。でも便利なものがあるのに使わない、なんてこともないんだよねえ」
「この家、普通に洗濯機もオーブンもあるもんな……」
パッと見はそこそこ古めかしい洋館だが、中身は至って普通に電気の通った現代的な家具がそこそこ置いてあったのはちょっとした衝撃だった。勿論、用途不明の薬品や植物などが並ぶ棚もあったが、それらと家電製品が同居する珍妙さは筆舌に尽くし難い。
「そもそも、お前はどうして俺を買ったんだ」
「あれ?言ってなかったですっけ?」
「聞いてない。加工方法は聞いた」
「いくつか理由はありますよ。まずは、試したかったんですよね、従者を作る儀式。成功したら街にお使いに行ってもらえるし、得意な事があるならそれも任せられるし」
「要は家政夫か。実際今やらされてるが」
「ですねえ。私はおいそれとこの谷からは出ちゃいけないので、とてもありがたいです」
「おう」
「あとは、単に顔が好みだったんです」
「は?」
「折角言う事聞いてくれる従者を作るなら、どうせなら自分の好きな見た目の方が良いでしょう?そう思って良い顔の死体ないかなーって探したら初手で貴方!奇跡ですよ!買い手つかなかったら食屍鬼の餌になるって聞いて尚更運命感じて買っちゃいました。私ほんのちょっと食屍鬼の血族なんですよ、ほんと薄いけど」
「左目潰れた人間相手によくそう思えたなあんた。あとさらっととんでもねぇ末路も教えやがったな……」
「腐肉喰らい。死霊術者。……迷宮の守番。谷に縫い止められていたんじゃなかったのか」
「この体は人形なので、出掛ける分には役目に支障はないですよ。あと語弊のある言い方しないで下さい、あなたと違って食べたことないんですから!」
「そうか。ところで連れてきたアレは死者蘇生……にあたるのか?お前の気配が中からするが」
「あぁ、いやー……生き返ってはないですね。本人は生き返ったって思ってますけど」
「巡らせているのは魔力、いや、血か。それで擬似的に生きた人間のように動かしていると」
「大体そんな感じです。魂はとっくに離れているから、今自我を担っているのは脳と全身に刻まれた生前の動きですね。死んでるから自分で指向性のある動きが出来なくて、私が血を与えて外部から支えてる……感じです。こんなんじゃ死者蘇生なんてとても言えませんよ」
「……まさか、イギリスのド田舎で日本人に会えるとは思わなかったな」
「そうですね。私も、ここに来てからは初めてです」
「……」
「……」
沈黙。
なけなしの話題を捌いた後に残ったのはお互いの距離感を図りかねる微妙な空気だ。とはいえ夜行は既に30半ばも越えた中年に差し掛かる男で、かたや相手はティーンの少女だ。十人が見れば八人くらいは夜行をロリコン野郎と謗りかねないこの状況で、一体何を話せばいいのか、とんと検討もつかない。
「あー……、お嬢さんはなんだ、どういう経緯で魔法使いに?やっぱりこう、素質とかでスカウトとか」
「あ、えぇと……オークションで商品として買われて」
「人身売買じゃねえか」
この現代でまさかの人身売買。
「やふやふ、こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
「結構健康そうでよかったー。あ、少し聞きたいことかあってね!大丈夫だよ、エインズワースには話を通してるから!」
「聞きたいこと、ですか」
「うん、さっきあなたと話してたヨルユキのことでね。何か様子がおかしかったりしなかった?急に暴れたり、情緒不安定になったりとか……なんでもいいや」
「…………いえ、特には」
「話してたことの内容を聞いても大丈夫?駄目なら言わなくていいよ」
「私と夜行さんがお互いここにきた理由とか……。あとは、イギリス料理が苦手って聞きました」
「なるほど、ちなみに彼はなんて答えたの」
「えっと……買われてここにきた、って。その、本当なんですか?」
「うん!結構いいお値段だった!」
「いっ……そ、そうですか」
「まぁ死体にしてはだけど」
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