平和に行きましょう。
わがこ
ケーテは母親を知らない。父親も、時々会うが親子として会話をしたことは、一度もない。身の回りの世話はいつも城に常駐している侍女達がしているし、犬を思い起こさせるような雰囲気の政務官が時々遊び相手をしてくれるので孤独そのものはあまり感じたことはなかった。
「次代様」
父親からはそう呼ばれていた。この国を継ぐ者として、物心ついた時からずっとそうして扱われている。今国を担っているのは母親だという。
一度だけ、母親と会ったことがある。女王なのだから、きっと威厳のある大きな存在なのだろうと想像していた。けれど、色々な意味でそれらは裏切られた。
母は、広大な温室の水辺で裸足のまま歩いていた。パシャパシャと水を蹴りながらシンプルなスカートを踊らせる姿は、ケーテと同じ歳の少女にしか見えなかった。長い黒髪を揺らしながら、幼いくらいあどけない顔で、こちらに気付かないまま遊んでいる。
「……あぁ、思い出した。お前、10年位前に私が産んだ子どもか」
仮にも我が子と初対面であるというのに、サラの反応はあまりにも素っ気ないものだった。いや、何となく理解していた。血縁者が全員死んでいなくなったと分かった時も眉一つ動かさなかった女が、産んでから一度も抱いたこともない実子を見て涙ぐむなどと普通の反応をするはずが無い。
そしてそれに対するケーテの反応は、こっちはそこそこまとまな感性をしているらしく、やや傷付いた表情をしていた。きっと理想像があって、それが今壊されたのだろう。同情はするが、それだけだ。
「正確には14年前ですな」
「ふぅん。結局、どっちだったんだ。お前?それとも側近?」
「鼻たれの方でしょう。面立ちは貴方と瓜二つですが、遺伝子検査の結果は私ではございませんでした」
「あぁ、そう」
そしてさらっと爆弾を落とす辺り、本気でケーテへの関心が薄い。まさか目の前で母親の男性関係を知らされるとは運がない。
「お前は私よりずっとまともな女王になれる。もしかしたら、歴代王の中で1番まともかもな」
「は、はい」
「お前にあげられるものは王座と魔導回路しかない。ごめんね」
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