平和に行きましょう。

監禁


 右よし、左よし。
 廊下の左右を端から端まで睨めつけてもネズミ1匹もいやしない。ついでに耳をすませば、遠くの台所から鍋で煮込む音や包丁が野菜を切り刻む音が聞こえて、また小さく「よし」と声に出した。
 ユスラの肩には鞄がかかっていた。白い布製のちんまいそれには、水とクッキー、ハンカチと絆創膏がぎゅうぎゅう詰めにされている。ご近所さんに見られたら、おやつを持って散歩かしらと微笑ましげに見られるような荷物だが、ユスラは本気であった。
 今日こそ、この家から脱出するのだ。


 ユスラは、物心ついた時からこの大きな家に閉じ込められていた。正確には、今しがた台所で昼ご飯の用意でもしているだろう男によって。
 最初は父だとか叔父だとか、少なくとも肉親にあたる人だろうと勝手に思っていた。そうじゃないと勘づいたのは、いくらか知恵がついてきて、男がユスラを呼ぶ時「先生」と呼ぶことがあると気付いたからだった。先生というのは学校という所にいる大人で、子供に勉強を教える人で、間違っても7歳くらいの女の子に大人が先生と呼ぶことは無い。おかしい、と1度考えてから、そこからは早かった。
 


「好きになったんだからしょうがないじゃない」
 とは、牡丹の言葉である。臆面もなく言い放ったその態度はとんでもなく開き直っていた。
「焦がれて恋して愛して頭がどうにかなっちゃうのよ。持て余すくらいの恋なら、いっそのこと身を任せてしまえばいいの」
「でも姥姥、それで逃げられちゃったんでしょう」
「うふふ、そうね。あの時は余裕がなかったから。娘はそういう所ばかり私と似てしまったから可哀想ね。お前は賢いから、逃がさずしっかりとやるのよ」































prev next
Back to main nobel