「おいで」
そう言って私をペットみたいに扱う彼が嫌いだった。優しい声とキラキラの笑顔で腕を広げる彼は何となく近視感がある。そう、あれは野生のポケモンと出会った時だった。丸っきり同じことをして手なずけていたなあと思いながら私は自分の欲望のままに腕の中に飛び込んだ。背中に手を回して長い髪を巻き込むようにして掴む。わざとじゃありませんよという体を装った意趣返しだ。
「いてて………こら、引っ張んないで」
付き合いの長い彼にはお見通しだったようですぐに怒られて髪から手を離した。面白くない。溜まった鬱憤がちっとも晴れなくてグリグリと頭を胸に押し付けた。
「なに?寂しかった?」
私の不満を的確に言い当てる彼はさすがの洞察力だ。ついでにオレもだよと言い添えるところはプレイボーイ。一ヶ月も放置していた彼女にそんな口先の言葉だけで許されると思ってるのだろうか。まあ実際チョロい私は騙されてしまうのだけれど
「………いっぱい構って」
二人の間で密かに合言葉となったセックスのお誘いに、彼は一瞬キョトンとしてからクスクス笑い始めた。ヤリモクみたい?だって、こうしないと彼は私よりも自身の手持ち達の世話をやきたがるから。
彼の一番はまずポケモン、そして次は強いトレーナー達かな。その次がポケモンバトルをやり続けるために必要な人たち。そしてそのずっとずっと後のどうでもいいところに私がいる。優先順位がおそろしく低い私には彼が気まぐれに相手してくれるのを忠犬のように大人しく待ち続けるしかなかった。せっかくの機会をムダにはできない。バカみたいな行いだけど私だって必死なんだ。足りない頭では他に彼からポケモンを遠ざける方法を思いつかなかった。下手くそな誘い方だったがそれでも彼は煽られてくれたようで耳元にそっと囁いてくる。
「えっち」
チラリと横目で見た彼の方が欲を孕んだ目をしているというのに私を悪者に仕立てあげたいらしい。全く酷い男だ。でも、しょうがないから乗ってあげる。少し背を屈めた彼の首に腕を巻き付けてピントが合わなくなるほどの距離で見つめ合う。
「そういうのキライ?」
「スキだよ」
間髪置かずに返ってきた返事とともに服の中に体温が滑り込んでくる。もう少し焦らすような素振りを見せても良かったのだが気分が良いので今日のところは流されておく。私に向けられたものではないけれど彼には珍しいスキの一言に心が弾んでしまうのが止められない。愛の言葉ひとつさえ満足に手に入れられないなんて本当に惨めだなあ。
噛みつかれて言葉を奪われたまま、私はアナタが好きよと返した。