君の特別になれない

初期遥
少し過激な表現あります

「桜君!」

荒々しく腕を引く君。普段とは違い物扱いをされてるようで心が痛い。

「………」

聞こえてるはずなのに一度も振り返らずに進み続けるその背中に目に薄い水の膜が張り始め、鼻の奥がツンとする。

「ここで良いか」

少しして足を止めたのは車の音も人の気配もなにもない。
風の音さえ聞こえない無の場所。

「さくら、くん……」

怖くなり震えた声で君の名を紡ぎ、涙も流れないようにぐっ、と掴まれてない方の手を握りしめる。ようやく振り返った二色のビー玉は普段より濁って見え、ちょっと…ほんのちょっとだけ怖いと思った。

「なぁ」
「……は、い」

いまだに私の腕を掴み続けてる手とは反対の手を伸ばしそっと頬に添えられる。冷たい手。

「お前は、誰の?」
「、え」
「誰の女?」
「さくら、くんの……彼女、です」

親指でするすると目元あたりを撫でられ問われるそれは問われてると言うよりも、確認をするように私自身にも分からせるように言われてるようで決まっている答えでも間違えてはいけないと心が焦り、言葉がつっかえる。

「…そう。オレの女、オレだけのお前」
「………」

何が言いたいんだろ。今更そんなこと言われなくてもわかってることなのに、私がどれだけ君が好きなのかわかってるはずなのに。
私は君のもの。
でも君は私のものではない、”彼女”という立ち位置でも君は独占欲も嫉妬も見せないし、周りの女の人と同じ風に扱う。
それがどれだけ苦しくて、安心したか。
誰か一人でも特別扱いされる人がいたら私は耐えられなかった。

「[FN:名前]」

今この瞬間までは。

「お前に軽々しく触れて困らせたあの男。どうしてほしい?」
「どうしてほしい、って」
「二度と[FN:名前]に触れないように腕折るか?」

口元を緩め歪んだ顔で笑う君に、ヒュッと息をのんだ。
君に約束のなしにいつもの溜まり場に会いに行った。でも君は他の人達と話していたから邪魔してはいけないと少し離れたところで待っていた。すると突然声をかけられ、振り向けばタバコを咥えながら笑う桜君の“友人”の一人がいたのだ。
片手で数えるしかあった事はないが知らない人ではなかったので、“友人”から聞かれることに答えながら桜君を待っていた。
そうただ話して待っていただけだった。最初は。
途中から違和感があった。
少しずつ近くなる距離、
会話の端々で意味もなく肩やら腰に触れてくる手、
極めつけは夜の営みの話。
どんどん雲行きが怪しくなっていく空気に耐えられなくなってきた
逃げようと1歩後ろに下がり桜君の元に向かおうか、それとも走って帰るか悩む

“ ぐぁ゙ぁ゙ ”

一瞬、本当に一瞬だった。鈍い音が聞こえたと思えば隣りに居た男が消えた

“お前、誰の女に手出してたんだよ”
“桜、君…?”

いつの間に来てたのか、私の隣に立つ君は地面を睨み付けて怒るから釣られて視線を向ければ男が鼻と口の端から血を流し倒れていた
思わずあげそうになった悲鳴を押し殺し口元に手を当てる。
まだ殴り足りないのか男に跨り殴ろうとするからその腕を掴み止めたのだ

“や、やめて…!”
“離せ”
“イヤ…っ、お願い、だからやめて…”

舌打ちを一つ零し男の上から退いた君に“よかった…”とぼやき、ホッと息を吐く。

“来い”
“っ、え、さ、桜君…!?”

その後からだった。いきなり腕を捕まれ連れ出されたのは。

「……」
「おい。聞いてるのか」
「き、聞いてる…腕を、折るのは流石にだめだよ、うん…だめ、絶対に」
私の答えに不服だと言うように眉を釣り上げ“怒り”を表す君に口を閉ざす
「やっぱりもっと殴っとくべきだったか」
「!…そ、それもだめ!」
「なんで?」
「なんで、って…」

殴ることは良くない。それは誰かが決めた“常識”で“ルール”だ
でも君にとってそんな常識やルールは関係ない。そんな事はわかってる、わかってても嫌なのだ

「人を殴ると、こぶしの皮が捲れて血が出るでしょ?例え相手が悪くても桜君が怪我するのは見たくない…」
「ふ、……ハハッ」
「な、なに?」
「あーあ、可哀想でカワイイなお前」

…?今なんて?カワイイ?誰が。
ひとしきり笑った君は、コツンと私の肩におでこを預け顔を隠す。さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこかにいき代わりに普段の危うげでだけどどこか惹かれる雰囲気に戻った。

「[FN:名前]」
「な、なに」
「嫉妬とか束縛とか面倒くせぇし、ダセーと思ってたけど…お前をオレのもとに縛り付けて他のヤローに見せなくて済むなら悪くないのかもな」

囁く様に少し低い声が紡ぐどす黒くて思い愛(言葉)にぞくりと背筋に冷たいモノが這うが、それと同時にぶるっと寒さとは違う何かが心を震わせる。これは歓喜だ

「そ、それって…桜君も私の事……━━━━━━」

はやる思いをそのまま音に乗せ唇から溢せばいい切る前に塞がれる。君のそれで。

「…ん…っ、ふ。…ちゃんと分かれよ、バーカー、とっくにお前は特別なんだよ」

吐息を漏らし離された唇は首筋に押し当てられ、少しの痛みと君の印を刻まれた

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