恋愛は後悔の連続

好きを自覚したらダメだったと後悔をしてもすでに遅いし、自分でコントロール出来るものでもないから“ 恋 ”や“ 愛 ”なんて厄介なものを作った人を恨みたくなるときがある。


「ミョウジ」
ガヤガヤと賑わう教室、と言っても同級生は私を含め4人。他の学校に比べての賑やかさはないが悠仁と野薔薇がいつも明るくて賑やかだから教室内が静寂に包まれることはない。

今も黒板の前で2人が言い合い(と言っても野薔薇が一方的にキレてる)をしてるを静観していたら案外近い距離から聞こえた、少し前から私の心臓を不整脈にさせる声に完全に油断していた脳は驚いたことにより身体を大きく揺らして自然とのけ反った。

ガタンと意外と大きくなった椅子の音に悠仁と野薔薇の声がピタリと止み、私の名前を呼んだ伏黒はいつもの無愛想な表情のままこちらを見つめていた。


「何やってんだよ」
「ご、ごめん…少し驚いて。……えっと、何か用?」

少し視線を彷徨わせながら椅子に座り直し、普段通りを心がけようと何度も何度も唱え続けるが考えれば考えるほど“ 普段通り ”が出来なくて混乱する。

今の返し方変じゃなかった?
今の態度は…?
どうやって話してたっけ?

ぐるぐる浮かぶ疑問が脳を覆い尽くし、まともに顔を見れないところか言葉がつまる。
周りから見たら“ あなたを意識してます ”と丸わかりだが、当の本人はそんな事に気づける余裕もない。

どうしたものかと頭を悩ませていると、ミョウジと再び名前を呼ばれ視線をついと少しだけ彼に向ける。

(あ……)

トクントクンと胸が甘く鳴る。出会った時はなんとも思わなかったのに、今では大好きになった、私の心を乱し囚える薄い青。

本当に嫌になる。先輩たちに付き合ってもらう特訓や任務のあとみたいに忙しなく動く心臓に苦しくなって頭がクラクラする。
恋なんてするんじゃなかった。自覚なんてしたくなかった。

伏黒と話すのが好きだった。
伏黒とするふざけ合いが好きだった。

そう。伏黒とすること全部が好きだった。悠仁や野薔薇とは違う癒やしをもらっていた。幸せだった。

なのに、たった一つの感情のせいで今までの“ 当たり前 ”にヒビが入りゆっくりゆっくり崩れていく。


「……おい、大丈夫か?」
「……っ、」


優しく、優しく細いけど男らしい指が目元をなぞる。
もうやめてほしい。


「も、やめてよ…」
「……」
「なんで、そんな優しく触るの……?」


じんわりと熱を持つ目頭と喉にうまく言葉が紡げない。
同級生がいる教室でなんて泣きたくないのに。
なにより好きな人の前でなんてもっと泣きたくない。


「なんで、そんな優しい目で見つめるの…っ、」
「………ミョウジ」
「っ……!なんでそんなに、優しい声で……名前を呼ぶの……」

ぼろぼろと流れる涙を見られたくなくて顔を覆い隠し、胸の内をこぼす。


いつからだっただろか。
私に優しく触れるようになったのは。それが恥ずかしくて触れらるのが少し怖くなったのは。

私を見つめる瞳がまるで大切なものを見るような柔らかさを持ち出したのは。その視線に見つめられるたびに嬉しく、もしかしたら…と思いはじめたのは。

私の名前を優しく呼ぶようになったのは。それを心地いいと名前を呼ばれるたびに自分の名前がもっと大切なものだと思うようになったのは。


「ひどいよ、」
「なにが?」
「どうして、隠しててくれないの……」

伏黒は隠しもしない。私への思いを。
目線で、行動で、言葉で、彼のすべてを使って伝えてくる。

それがずるくて、酷いと思った。


「気づかせないでよ……見せないでよ、……隠しててよ…ずっと、そうしてくれれば……私に何かあったとき、伏黒が気が気で死ねないよ………」


この世界はいつだれがどうなるかわからない世界だ。
今笑いあってても言葉通り、一秒後、一分後どうなってるかわからない。これが最後の会話かもしれない。
そんな世界に身を置くからこそ、【一度しかない人生を楽しめ後悔のないようにしろ】と言う大人にたいして特別な存在を置いていけるほどの覚悟も、作る覚悟もできなかった。

だから少しずつ変わりゆく伏黒への気持ちに目を背けて【クラスメイト】を【同期】を【友人】を演じてきたのに。

隠せれたのに。脳が麻痺って伏黒は大事な同期で友達だと思い始めたのに。好きなんて気のせいだったかもって思えてたのに。


「きらい……」
「…………」
「伏黒、なんて…きらい…だいっきらい!」


子供のように癇癪を起こして、彼の胸元を拳でドンドンと叩いて泣き叫んでもただ黙って受け入れるだけでそれがまた憎らしくて腹立たしくて………━━━━。


「言いたいことはそれだけか?」
「……っ、」


胸を叩いて腕を掴まれ顔を覗きこまれ、視界いっぱいに滲んで写る薄い青はやっぱり優しくて柔らかい。ミョウジと大好きな声で、少し低めに呼ばれたあときっと涙で濡れてしょっぱいはずの唇に熱が重なる。

数秒重なった唇はゆっくり吐息とともに離され、コツンとおでこをぶつけられる。


「好きだ」
「……、」
「置いていかねぇから。拒むな、さすがに傷つく」
「……ふしぐ、…ん……っ」


悲しげにぼやいた言葉に返したくて名前を呼べば再び彼の唇によって言葉を切られる。


「いい加減呼べよ名前」
「なま、え?」
「なんで俺だけいつまでも伏黒なんだ。普通にムカつくんだよ」


悠仁や棘先輩とか他の異性は名前で呼べても伏黒だけは、恥ずかしくて馴れ馴れしいと思われたくなくて、嫌われたくなくて名前で呼べなかった。
呼んだら、ただでさえ特別な君が特別になりそうで。怖かった……

いいのかな、呼んでも。
ひと呼吸おいて呼ぶ準備をしてもなかなか勇気が出なくてもごもごとしていたら、「早く呼べ」というようにちゅ、ちゅと触れるだけのキスを何度もされる。


「ほら、早く」
「…っん…めぐ、み………?」
「なんで疑問形なんだよ」
「……恵」


呼ばれた事に満足したのか、表情を崩して笑うふし、……恵の顔に今まで隠してきた気持ちが溢れ伝えたくて伝えたくて気持ちが焦る。


「恵、好き……大好きです、」
「…ん、」
「嫌いって言ってごめんなさい……っ、ずっとずっと、恵のことが…」
「知ってる。気づいてた…お前の気持ちは」


だからこれは俺のわがままだ。とそう言って私を抱きしめる腕はどこまでも優しくて応えるように背中に腕を回す。
何度も夢見た、叶わない夢の中で望んだ彼の腕の中はお日様のように暖かくて安心する。


「悪い、苦しめて…でもこんな世界だからこそ、伝えないのは違うと思った。何より……」

言葉を区切りどこか言い難そうに、言葉を選んでいる様子に私はひたすら待った。


「お前を誰かにとられたらと思ったら、我慢出来なかった」
「…え…、」
「悪いかよ」


抱きしめられたままだから表情まではわからないけどスネてるような、照れてるような口調にクスと笑みが溢れる。


「ううん、嬉しい」
「…そうかよ。」


本当に嬉しくて幸せで。この熱を喪いたくない気持ちはより強くなった。だけど、「置いていかない」と言ってくれた彼の言葉に嘘偽りはないだろう。
私はその言葉を信じて、置いていかれないように、何かあっても救えるように強くなろうと心に誓った

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