秘密の共有





暗闇が空を包んだ頃、私は部屋の窓から外の景色を見つめた。しかしそれでは飽き足らず、窓を開けて足を掛けると、勢いよく跳んだ。次の戦いに備えて早く寝るべきだとエリウッドに注意を受けたばかりなのに懲りずに屋根に上がる。
満天の星空の下、私は黒い牙に加入した時を思い出した。あの時、ロイド兄さんが私を助けてくれなかったら今の自分はなかった。

山賊に襲われて、一家が散り散りになって私は一人取り残されて殺されそうになった。あと一秒でも遅かったら死んでいただろう。斧が振り下ろされた瞬間に目をつむって金属がぶつかり合う音で目を開けると、そこには片手で山賊の斧を受け止める青年がいた。それが私とロイド兄さんの、奇跡に近い出会いであった。

「何してる。早くこっちに来い!」
「……!」
「お前、名前は?」
「名前…」
「そうか、名前。安心しろ、俺はお前を殺したりしない」

こちらに手を伸ばす優しい笑顔の青年、それがかつてのロイドであった。温かい手は私の心を解きほぐすようで、あの頃から黒い牙の皆と共に過ごしてきた。

ぼんやり昔を思い出していると、梯子を上ってくる足音がしたのでそちらに視線をやると、昼間の彼の頭が視界に入った。

「また、考え事ですか?」
「ええ…そんなところ」
「ルセアさんに、名前様と会ったら早くお休みになるよう言ってほしいと頼まれたのですが…」

ルセアは相変わらず私に対して過保護だ。彼との出会いも幼い頃で、私たち黒い牙がいた村の近くの孤児院に、彼はいた。外のベンチで魔道書を読んでいて、そこに私が声を掛けたのだった。

ルセアと私の出会いのいきさつを話すと、ヒースは納得したように頷いた。それから、何を思ったのかすらすらと黒い牙のことも全て話してしまった。
会ったばかりの人間にこんなにも心を許してしまうことに自分でも驚いたが、夜空は素知らぬ顔で私の声を掠めとっていくので、ぽつりぽつりと言葉が漏れていく。
彼はその事実に最初こそ驚愕していたが、それを咎めることも責めることもせずむしろ礼を口にした。

「どうして…ヒースがお礼を?」
「皆さんにはお話ししていないであろうことを、俺が聞いてしまったので…」
「そんなこと、気にすることないわ。それに……」

ヒースは私の言葉の続きを待っているようだったが、それ以上を紡ぐことは出来なかった。貴方だから話したの、と言えるほどの仲でもなければ、それほどの信頼関係もこの時はまだ築いていなかったのに、こんなにも大切なことを何故話してしまったのだろうか。
彼の持つ空気がそうさせているのだ、私は適当に理由をつけて自分を納得させた。

夜の空に星がきらりと流れていくのを2人で見つめていると、そろそろ休みましょうかという彼の言葉で私たちは自室へと戻った。


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