闇の中、君の色
今まで一番近くで支えてくれた彼と離れることが、こんなにも辛いなんて。こんなにも胸が痛むなんて。
こんなにも、好きだったなんて。
「名前?」
「…ごめんなさい、私…」
“失って初めて分かる大切さ”というものが世の中にはあるらしい。今まで私はそんな真理とは無縁の人生を送っていると思っていた。
その理由は至って簡単だ。
この戦いで失った人はみな元々私の大好きな人達で、失って当たり前の苦しみが私を襲っていたからである。
今はもうブラミモンド様は側にいない。苦しい時に側にいてくれた人と別れ、一人になってしまうことに今更恐ろしくなっていた。
私は様々な人の優しさに触れる中で、いつの間にか他人の温もりから離れられなくなってしまったのかもしれない。
「……っ…」
はらりと涙が零れそうになったとき、私は彼に背を向けた。いっそ、ヒースとは出会わなければ良かったのにと思うこともあった。しかしどれだけ離れても、もう忘れられそうにない。
私の涙を拭ってくれるこの温もりも、私を包んでくれるこの優しさも、全て私だけの彼なのだから。
「俺がいる前なのに、一人で泣かないでくれ」
「……ヒー…ス…」
「名前……」
その時、首から下げていた指輪がキラリと光った。その光りは父さんと母さんが私たちを見守っているようで、私はそっと目を閉じて彼の腕に自分の手を重ねた。
そして指輪に通していた糸を切り片割れをヒースに渡すと、それはきらりと光った。
――兄さん、私はこの人を愛してるの。たとえこれから離ればなれになるとしても、きっと彼以上に想いを寄せる人は現れない。
兄さんのことだから…ため息を一つ吐いて、行って来いと笑顔で背中を押してくれるでしょう?
もちろん、兄さんとの約束は守るわ。それと――
「世界が平穏を取り戻したら…また…」
「ああ、何処へ行こうと必ず君を迎えに行く」
私、大事なものがようやく分かったの。それは目に見えないものだけれど、とても暖かくて明るくて、心地好いの。
黒い牙として過ごした思い出を忘れたりしないわ。
でも私は、いつまでも兄さんにすがり付くことは出来ない。もう前を向いて、大事な大事な明るい未来に向かって歩いて行く。
今まで兄さんが私のために切り開いてくれた道を、これからは私が自分の意思で進むの。
だから、今一度苦しくなって私が思い出の中の兄さんに会いに行く時までは……
「行くぞ、名前」
「ええ、今行くわ」
さよなら、兄さん。
行ってきます。
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