彼の話によると父親は先の大戦に参加した魔道軍将なのだとか。私はその話で、彼の家柄の名に聞き覚えがあった理由を思い出した。
私がかつて勤めていたベルン王国のヘレーネ王妃の元でお会いしたことを。


Episode:03 Nervousness




「ヘレーネ様はどこにいらっしゃるのかしら?」
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「もちろんですわ。私はリグレ公爵家のルイーズと申しますの」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」





あのルイーズ様の子息だったのかと考えると、急に身分の差異を感じて体が強ばった。
そんな雰囲気を察知したのか、クレインは身分のことは気にしないように私に言った。

「君といると、僕も楽なんだ。だから…敬語は使わないでくれ」
「そう…?でも、いいの?」
「もちろんだよ。改めてよろしくね、名前」
「うん、よろしく。クレイン」

にこやかに微笑む様子は、さながらどこかの国の王子様。実際彼は上流貴族ではあるのだが、この風貌はどこかの国の王子を思わせるような気品があった。
出会った時から感じてはいたが、私とは生きる世界が全く違うような、そんな空気を纏っていた。

「名前、行こう!」
「え…ああ、うん」
「どうかしたのか?」
「別に何でもない!ほら、クレイン!」

顔を覗き込まれて縮まった距離に、私の鼓動は速くなっていた。彼の端正な顔があんなに近くに、と先程のことを思い出すだけでも恥ずかしい。

戦いが終わった後、私は自分の気持ちを整理しようと木の下で一人先ほどの状況を振り返っていたが、思い出せば思い出すほど恥ずかしくて堪らなくなった。

(クレインって…何であんなに…)


「こんなところで何をしているの?」
「!?」
「私はスー。貴女は、名前ね」

驚いた私の姿を見て、敵が急に現れた時に対応出来なくなるわ、とスーは淡々と言った。
クレインが、といくらでも言い訳は出来たのだが、初めて話す相手に向かってあんな恥ずかしい話をするわけにはいかない。
一先ずスーに対し簡単な挨拶を済ませ、その後の会話で少しお互いのことを知った。

「サカ…行ってみたい」
「とても素敵なところよ」
「素敵なところ、ね」
「ええ。私達の誇りの地だから」

スーの隣は適度な緊張感があると同時に安心感もあり、心地が好かった。“誇りの地”という言葉で私が彼女に紹介出来るのは何処だろうと考えて初めに出てきたのは、狭苦しいベルン王宮だった。


(あそこは、誇れる場所なんかじゃない)


ベルンはただ単に長い時を過ごしただけで、彼女の言うサカのような開放的で自由な空間ではないのだが、私にとってはあながち間違いでもないような気がした。

「名前?」
「え?あぁ、ごめんなさい」
「貴女の力は認めるわ。でも、決して一人で戦うことはしないで」
「…ありがとう」

スーは私の言葉を聞いて天幕へと戻っていった。
訪れる静寂。
聴こえるのは風に揺られる木々の葉が擦れ合う音、虫達の鳴く音、そして何かが刺さるような……

そっと音の方へと歩みを進めると、見えてきたのは小さな泉とそこに佇む人影。生憎の曇り空で顔や服は見えないが、それは―――。



1/26
prev  next

top 戻る