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Episode:04 conflict
彼が弓を放つ姿は呼吸するのを忘れてしまうほどの美しさだった。元々端正な顔立ちをしているが、月の光に照らされる金色の髪と汗で輝いているように見えた。
私は時間を忘れたかのように数分そこに立ち尽くしていた。気付いたのはクレインの方で、一瞬驚いた顔を見せたがすぐに私へと笑顔を向けた。
「誰かと思ったよ…見られてしまったな」
「え…?」
「いや…僕は弓もそんなに上手じゃなくて。母上を超えたくてこうして鍛錬しているんだけれど…なかなか、ね」
「……そう」
昔々に絵本で見た金髪の王子様なんて現実には存在しないとばかり思っていたがこの人はその夢に近い。しかし、そんな夢はとっくに捨てたのだ。
私は幻想的な月の光を避けるように目を伏せ、ぼんやりしていた思考を振り払った。
嫌い、嫌い。嫌いなんだ。
貴族は傭兵の敵、もしくは雇い主でしかない。
(しっかりして、私。忘れたの?)
「名前…?」
「鍛錬の邪魔をしてごめん…私はこれで…」
「…ちょっと待って、教えてほしいことがあるんだ。君は…名前の弓の腕は一体どこで…」
騙されちゃいけない。やはりどこでもそうなのだ。貴族なんて自分勝手で人の命の大切さを知らない人ばかり。だから嫌い。弓は狩猟で使っていた?要するにそれは娯楽。命の重さなんて知らない人ばかり。
「傭兵は戦うためにいるんだよ、クレイン。貴方は貴族だから知らないかもしれないけど、腕が良くなきゃお金も稼げない」
「それは分かっているつもりだよ。師匠は…」
「分かりっこない!」
想像以上に大きな声が出てしまい自分でも驚いた。クレインも私の声に怯んだようで何も発しなかった。だからといって謝るつもりもなく、暫し私たちの間には沈黙が流れた。
(そう、忘れもしないあの日。あの出来事がなければ…あんな不幸が起こらなければ…母が病気にならなければ…)
今となってはどうにもできない無数の悔しさが私を支配する。ゆっくりと瞬きをしてから彼を見ると、クレインはこちらに向けていた目を伏せていた。ちくりと罪悪感の念が私の心に宿ったが、小さな心の痛みはすぐに引いてしまった。
「…すまなかった…確かに僕に君の気持ちは理解出来ていないかもしれない。謝るよ」
「別に謝ってほしいなんて言ってない。分かるわけない、分かりっこない、暖かい箱の中で過ごしてきた貴方には」
「……何が君の心をそんなにも傷付けているのか、僕は知りたい。でも今日は聞かないよ。早く寝て明日に備えよう、名前」
結局それからクレインは私の目を一度も見なかった。だから何?昔の私ならきっとそう言っただろうし、そんなこと気にも留めなかっただろう。
なのに、どうして何でこんなに心が苦しいの?どんなに問いを投げかけても自分の中から答えが生まれることはなかった。
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