武器の整理をしていたところにほらよ、と差し出されたのは生肉。この状態で食べろと言うのかと彼を睨みつけると、どうやら焼いてくれと言いたいらしい。しかし生憎この軍に肉焼き機はなく、どこかの村に持ち込む以外方法はない。それを彼に伝えると、じゃあ食いに行くかと腕をぐいっと掴まれた。逆らおうにも私も空腹状態が続いており、素直に彼の誘いに従うことにした。

「あーあ、やってらんないね」
「何が?」
「解放軍のこと。もっと楽な仕事かと思ったんだけど」
「そんな訳ないでしょ!フォルスにちゃんと聞いたんじゃないの?」

あいつの“ちゃんとした説明”で俺が分かると思う?と彼は笑った。確かに、と私はフォルスが彼を説得する様子を想像して同じように笑みを浮かべた。あのフォルスのことだ、輝いた瞳と物凄い勢いで俺とクレーべ様とともに来ないか!とでも言ったのであろう。そしてパイソンはそんな暑苦しい彼に流されたに違いない。

「言いたい事、分かるでしょ?」
「うん。ふふっ、フォルスらしい。でも無茶しちゃだめだよ、パイソン」
「はいはい」
「また適当な返事して!」

命を懸けて戦っているはずなのに彼はそれを軽視しているように思えて私はずっと怖かった。いつか彼が帰ってこない時が来てしまうのではないかと。それを真面目に伝えてもいつも話を逸らされてしまうのだ。ずるいと思いつつ、もし悲しい言葉を返されたら私はなんて答えるべきなのだろうと悩んでしまう。

「ま、大丈夫だから。そんな顔しないの」
「だって、パイソンが…!」
「はぁ〜。俺の力、ちょっとくらい信用してよ。名前のことは守るって言ったじゃん?それに嘘はないからさ」

よしよし、と子供をあやすように髪を撫でられると気持ちが落ち着いてしまうから困る。本当はもっと伝えたいことがあるのに。これではいつも通りパイソンのペースだ、と私はその手を掴んで彼の足を止めた。
可愛いと思ってもらえなくていいんだ。彼に無事に帰ってきてほしい。その強い思いで彼の瞳を見つめた。

「パイソン、私は…!」
「……名前」

言葉を遮られた瞬間、掴んでいたはずの彼の腕がそのまま私の腕を掴み返し、強い力で腕の中に閉じ込められた。パイソンに抱き締められているという事実に気付いて顔に熱が集まり、鼓動が早くなる。落ち着こうと息を吸うと彼の匂いに包まれて胸の高鳴りが収まらない。

「その顔は、ずるい」

ぎゅっと腕の力が強くなり更に体が密着すると、彼の鼓動の速さを感じた。こんなにも余裕のないパイソンを見るのは初めてで、私は動揺して体が固まってしまった。そのせいで呼吸をするのを忘れており、突然の息苦しさに驚いて必死に伝えた。

「く…苦し…!」
「あ、悪かった」
「はぁっ…!パイソン…どうし……んっ!」

やっと息ができたと酸素を吸い込んだのも束の間、彼からのキスでその道は塞がれた。どさり、と彼の持っていた肉が落ちる音を片耳に入れる余裕もなかった。
視界に広がるパイソンの整った顔が恥ずかしくて私はきゅっと瞼を閉じてキスに応えていたのだが、まだ酸素が足りていない頭がぼんやりしてきて堪らなくなる。

「んんっ…!」
「……名前…」
「ぷはっ…!はぁっ……」
「俺は死なないから」

真っ直ぐな瞳が私を捕らえて離すことを許してくれない。パイソンの熱い視線をただ受け止めていると、彼はふっと笑って私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
ほら肉食いに行くよといつもの調子の彼に拍子抜けして立ち竦んでいると、早くと急かされる。

「ず、ずるいのはパイソンの方じゃん…!」
「んー何か言った?」
「何でもないっ!」

抱擁とキス、熱い視線を思い出して赤面している姿を見られないように、振り返る彼の背中を目掛けて足を速めた。