さくさくと葉を踏んでこちらに歩いてくる足音がしているなと思いつつ名前が薬草を詰んでいると自分の背後でその音が止まったので顔を上げると、目の前にいたのは最近ずっと近くにいる弓兵の彼。

「よ、子猫ちゃん」
「パ、パイソン!私は子猫ちゃんじゃなくて、名前です!」

わしわしと頭を撫でられてぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで梳いていると、パイソンは突然名前の手を掴んでその行為を中断させたので、彼女は驚いて彼の顔を見上げた。

「な、なんでしょう…?」
「ほら。葉っぱ付けて、次はたぬきにでもなったの?」
「もう!違いますってば!」

深緑の葉をひらりと見せてきたと思えば、また動物に例えられる。ぱしりとその葉を払い落とし、こうやってからかわれるのは女として見られていない証拠なのだろう、と一連のやり取りをした後に名前が落ち込んでいると、彼女の様子に気が付いたパイソンは頭を掻いて小さくため息を吐いた。互いの思いがすれ違っていることに、まだ2人は気付いてはいない。

「パイソン…あ、呆れました…?」
「何が?」
「えっと…いえ…その……」
「名前が心配することは何もないと思うけど?」

意味がわからないと名前が自分より頭二つ分ほど背の高いパイソンを見上げると、いつもの飄々とした表情で彼女を見つめる彼と視線がぶつかった。
鋭い切れ長の瞳に見つめられると、どうしても緊張してしまう、と名前は言葉を失った。
一方のパイソンは彼女の可憐な瞳に見つめられ、吸い込まれそうなほど美しいその色から視線を外すことは出来なかった。
どのくらいそうして見つめ合っていただろうか。やはり先に折れるのは名前だった。

「パ、パイソン…そんなに見ないでください……」
「名前の目が綺麗だから仕方ないね」
「な…!!なんですか、急に…!」
「本当のことを言ったまでよ。え、もしかして自覚ないの?」

顔を近づけてじいっと見つめられ、名前は顔に熱が集まるのを感じた。恥ずかしさやら暑さやらで頭がくらくらし、くるりと彼の視線から逃れてぱたぱたと顔を扇いでいると、後ろからその腕を掴まれる。

「その反応、ずるくない?」
「え…?」
「勘違いするよ」

そのままもう一度反転して彼の方を向かされると、パイソンも心なしか先程よりも表情に余裕がなくなっているように感じる。繋がれたままの手から伝わる体温も高い。どうにでもなれ、と名前は勢いに任せて彼の言葉に勘違いしてもいいですよ、と返事をしたつもりが緊張のあまり声が掠れてしまった。

「待って名前、それは卑怯だわ」
「きゃっ…!」
「どうなっても名前のせいだからね」

繋いだ手を強く引かれて彼女はパイソンの腕の中に収まった。彼の鼓動が速く感じる。いつもはあんなにも余裕の笑顔を見せているパイソンがこんな風になるなんて、と驚きつつ自分の心臓も大きく波打っているので、彼に伝わっているのだろうと恥ずかしくなった。

「あー…、やっぱり可愛いわ」
「もう、本当に……恥ずかしいです…」
「ね、名前」

俺のものにならない?という台詞が彼女の耳から脳に届いたか届かないかのところで、パイソンから優しいキスが落とされた。考えていた返事も気の利いた言葉も全てその甘い感覚に溶かされてしまい、名前はただ彼の腕に縋ることしか出来なかった。