手紙を折る音




ソフィア解放軍の戦いが終わりバレンシア統一王国として各地で復興が進む中、ルカの元に兵士が訪れた。バレンシア大陸を救った解放軍から騎士団に所属した彼の元に槍や学問を学びに来る兵士は確かに多かったのだが、今回はどうやら違うらしい、とルカは書類の山から顔を上げた。

「何でしょう?」
「ルカ様へお手紙が届いておりまして…」
「私に?さて、どなたからでしょうか…」

簡単に封のされた包みに差出人の名前はない。兵士が困った表情で立ち尽くしているので、ルカは彼を持ち場へと帰した。封筒を開けて中身を確認すると、そこには1枚の絵が入っていた。
そしてルカはその景色をよく知っていた。

「これは、ソフィア城…ですか。いや…バレンシア城…?」

まさか、とルカはその裏を見るとそこには見慣れた人物の名前が記されており、彼はその名を見て目を丸くした。まさか此処に彼女が戻って来ていると言うのだろうか。はやる気持ちを抑えてルカは自室の窓から外を窺い、彼女の姿を探したが目当ての人物がいる様子はない。

彼女とは解放軍の解散と共に別れた。アルムやクレーべが説得するよりも前にふらりと姿を消したのだ。元よりルカと彼女は共に行動することが多く2人で軍師の役割を担ったこともあった。彼女は自身の出身を語らないものの国や出身に縛られることなく、それゆえにルカやクレーべを驚かせる発言もしていたが、それ以上に戦場では冷静で頭の切れる人物で彼らの信頼を得ていた。

「貴女が、バレンシアに帰ってきたのですね…」
「あら?ルカ、もしかして私の話?」
「名前さん…驚きました。いつ、こちらへ?」

これでもバレンシアから離れてはないのよ、と彼女は笑った。彼女は吟遊詩人としてソフィア解放軍の勇姿を語りながら、暫く放浪の旅を続けていたらしい。いかにも自由な彼女らしい、とルカはその話を聞きながら微笑んだ。
貴族だから、ソフィアの人間だから、と何の疑問もなくソフィア解放軍に入軍した自分とは全く違う生き方をしている、自分にないものや知らないものを沢山知っている人だ、とルカは改めて感じた。

「リゲル地方に行ったりね、ヌイババの館に行ったりね、色んなところを回ったわ。まだリゲル地方ではソフィア解放軍の話をすると嫌な顔をする人もいるの。どんなにアルムが頑張っても…きっと、此処に居るだけでは難しいから」

だから私がその分まで働きたいの、と名前は笑った。どうして彼女はこんなにも前向きに、見返りなど考えないで行動できるのだろうか、とルカはその笑顔を見つめた。

称号は何のためにあると思う?という彼女の問いに、ルカは言葉を詰まらせたことを思い出した。その時の彼には、昇進の証やその恩恵に与れる印など、つまらないことしか浮かばなかった。
そして彼女は言ったのだ。
称号は自分のためにあるモノじゃない、他人に認められるためにあるものだ、と。

「変わりませんね、貴女は…。いつでも輝いて見えますよ」
「そういうルカは少し変わったんじゃない?昔ほど私のことを羨む目では見てないんじゃない?」
「あはは…。名前さんには敵いませんね」

自分の満足いくことを達成できれば、他人からの評価など気にする必要は無いでしょう?と当時の名前がさらりと口にしたのを思い出した。勝気だと言われれば確かにそうなのかもしれないが、彼女の言葉には何故か説得力があるのだ。
じゃあもう行くね、と名前はひらりと手を振った。

「あ…!名前さん、待ってください。お手紙の返事はどちらへ…」
「え?ルカ、返事くれるの?」
「はい、初めからそのつもりでしたよ」
「本当に?嬉しい…ありがとう!それなら、リゲル地方のヌイババ館宛で。私の名前も忘れずにね?」

ウインクして見せて手を振る彼女に返事をして見送った。嵐のように突然やってきたと思えば、こんなにも晴れやかな気持ちにさせられる。彼女はそんな太陽のように明るく温かい人なのだ、とルカは窓の外に輝くその光を見つめた。

「さて、何からお返事しましょうか」

まずは交際の申し込みでしょうか、とルカはそれを読んで慌てふためく彼女の様子を思い浮かべて筆をとった。