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厳しい陽射しが地面を照りつけ、ロビンはあっついなー!と額に手を翳して雲一つない青空を仰いだ。ソフィア地方では数日間快晴が続き、鍛錬の時間も大粒の汗が伝う。一旦休憩しよう、と鍛錬の相手となっている新入り兵士に告げ、彼も木陰へと身を寄せた。
かぶりと水を飲んでも喉が乾く季節だ、と彼は汗を拭う手巾に手を伸ばそうとした。
「あ!やべ、忘れた!」
「はい、ロビン。これのことでしょ?」
えっ?と彼が顔を上げると、にこりと笑う名前と目が合った。驚いて何も言えずに固まっていると、変な顔してお礼もないの?と彼女は不満そうに手巾を投げつけて彼の隣に腰掛けた。
ごめんありがとうとぼそぼそと小声でそれを受け取り汗を拭っている間も名前は隣におり、ロビンの鼓動は早くなるばかりだった。
なぜなら、彼は名前に片想いしているからである。
「と、ところで、何でここに?」
「グレイが届けてやれって言うから」
「あーなんだ、グレイか……」
「なんでガッカリしてるの?おかしなロビン」
ふふっと笑う名前が可愛らしくて見惚れてしまい、ロビンは再び固まった。彼女は貴族ではなく、この戦いの最中に親を失いアルムとセリカの計らいにより城に勤めることになったのだと聞いていた。
なのに天使のような笑顔を見せてくれるのだ、とロビンはふにゃりと笑った。
「ほんと、ロビンって面白い」
「え、ええっ?面白いのか?」
がっかりしてると思ったら次は笑ってたり、一緒にいて楽しいよ、と名前はにこりと笑った。確かに彼女が悲しんでいるよりかは笑っている方がいい、とロビンは思ったが、どうせなら格好いいとも感じてほしいなと隣に置いてある剣を見て考えた。
ふわりと木陰の2人の間を風がそよぐと、ロビンの汗がすうっと彼の体を冷やした。
「あ、あのさ」
「ん?」
がばりと立ち上がってロビンは名前を見下ろした。ぽかんとしている彼女に対し、彼は深呼吸をした。
「俺、もっと強くなるから!んで、名前がもっと笑えるようにしたいんだ!って俺、何言ってんだ…」
グレイに聞かれたら笑われるやつだとロビンは掌で顔を隠していたが、何も言わない名前の様子が気になって指の隙間からちらりと彼女の反応を窺った。当の彼女はぽろぽろと大きな瞳から涙を流しており、ロビンは大いに焦り、あわあわと手を泳がせた。
「え…ご、ごめん!俺、変なこと言って…!」
「…ううん、違うの……私、嬉しくて…ごめん……」
「う、嬉し…って…え?名前…」
会話の途中でロビンを呼ぶ声が聞こえ、休息の時間が終わりを告げる。行きたいが、彼女を置いていけないし、でも鍛錬の相手の彼を待たせるわけにも行かないし、とロビンはうーんと対応に迷っていた。
すると名前は再度ごめんと声をかけ、行っていいよと涙目を細めてロビンへ笑いかけた。
そんな顔で無理に笑ってほしいんじゃない、とロビンは手をぐっと握りしめたあと片膝をついて名前に目線を合わせた。
「俺、すぐ戻るから……絶対ここで待ってろよ!」
顔を赤らめるロビンに名前は素直に頷いた。彼なら絶対に戻ってきてくれると確信が持てたのだ。ただの鍛錬なのに大袈裟だとも思ったが、ここにいれば彼がまた迎えに来てくれるというその希望が名前の心を強くした。
「じゃ、ちょっと行ってくる!」
好きなら当たって砕けちまえよ!とグレイは背中を押したが、当たって砕けなかったお前に言われたくない!とロビンは彼女にアプローチするのを避けていた。いよいよ痺れを切らしたグレイは、名前の方からロビンに近付けることを思いついたのだが、まさかこんなに上手くいくなんてな、と幼馴染みの服から抜き取った彼の手巾を見て一人笑みを浮かべた。
片想いの硝子玉が砕けるまで、あと少し。
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