お前は鈍感でツンデレだと文句を言われた。それは貴様だと返した。何にも判ってないと言われた。貴様こそ判っていないと返した。
それは端から見ればいつもの喧嘩のようだったかもしれないが、それは違った。レナックは本気で怒っており、私が話し掛けようとしても避けられた。

「レナックはどうしてあそこまで怒るのだ?私には理解出来ん」

一人で悩みながらも今日はもう話す機会はないと諦めようとしていた。しかしよく考えれば、私はなぜこんなにもレナックと和解するために奔走しているのだろう。

「というか、私は一日中彼奴のことしか考えていないのではないか…それは遺憾だな。話してもいないのに、厄介な人間だ」

ぶつぶつと文句を言いながら私はレナックを探すことを諦め、天幕へと入った。一日顔を合わせないなど滅多に無いことであったが、これといって特に問題はない。手合わせでは実力差がありすぎるし、かといって頭脳も私の方が優れている。

「なのに、私の頭の中は彼奴のことばかりだ。全く持って気色悪い」
「誰が?」
「私がだ。…!…貴様!何処にいたのだ!?」
「俺を探してたのか。そりゃ、悪いことしたな」

この男は癪に障る言い方しか出来んのか、と睨みつつ私は自分に呆れた。探していない時に限って出てきて、有り難迷惑も程々にしてほしい限りだ。

「この私が貴様に頭を下げて謝ろうとしていた時に消えるなんて、いつからそんなに身分が高くなったのだ?」
「へぇ、名前が俺に謝ろうなんて天地がひっくり返りそうな話だ」
「だがそれもやめた。突然消えた貴様が悪いのだからな!」
「……相変わらず可愛くない言い方するな、お前は」

可愛くないと言われようが気にしていないつもりだった。否、気にならなかったのだ。昔ならば。今の私はどうだろう。
残念ながら、私は彼が望むような可愛い人間ではない。可愛いというのは一般的にナターシャやネイミーのような女性らしいのをいうのだろう。無論、ヴァネッサも可愛いが。

「それくらい言われずとも知っている」
「は?何だ、そんなに直ぐに認めるのか。拍子抜けしたぜ」
「私よりも可愛い奴なんてこの軍には沢山いるからな」
「ああ、さっきのか。あれなら冗談だって。お前も十分…」

彼が言葉を続けようとしたのを、私は遮った。別段そんなことを言って欲しかった訳ではない。
拗ねている自分にそろそろ嫌気が差した上に辺りも薄暗くなっていたので、私はレナックを天幕から追い出そうとした。

「……俺は、」
「何だ急に真面目な顔をして」
「別に…お前は普通に可愛いと思うけど。ただし、口さえ開かなければな」
「一言余計だ、馬鹿者!」

彼の台詞が嬉しくなかったと言えば嘘になる。憎まれ口を叩き合いながらも段々その日常が当たり前になっていて、彼が隣にいるのも当たり前になっている。

「待て、レナック」
「何だよ?」
「…いや、何でもない」
「名前、」

レナックを追って天幕を出たが掛ける言葉が見つからずに結局濁してしまった。
そして、ふわりと頭に置かれた手。驚いて彼を見上げると、にやりと笑うレナックの表情が目に入った。

「そういう顔は、可愛いんだよ」
「煩い黙れ放っておけ」
「……はぁ…」
「何だ」
「いや、やっぱりそれでこそ名前だと思うって話」

何だかんだで流れを持っていかれるのが癪に障るが、こういう関係が私達なのだと改めて認識した。