戦いが終わった。
久々に姉妹で集合し、たまには揃って実家に帰ろうかとシレーネから提案されたが、私はそれを断った。自分でスナイパーになる道を選び家を出たのに、こうも簡単に帰ってたまるかというどうしようもない反発心がぐるぐると心を支配していた。

そしてヴァネッサとシレーネを見送り、私は放浪の旅に出た。



もちろん彼に未練がなかったわけではない。しかし彼の家系を考えて私は別れを告げる選択をした。いや正確に言うと勝手に姿を消したのであるが。
どうせ金に目のないあの男のことだから、親の勧める御令嬢に気を取られて私のことなどすぐに忘れてしまうだろう。
そんなつまらないことを考えていると大きな石につまづいた。

「おわ…っ!」
「なーにしてんだ?こんな石で転ぶなんて、お前らし」
「レ、レ、レ、レナック…!?何故…!?」
「おいおい落ち着け。人を幽霊みたいに言うなよ」

意味がわからなかった。あの男が目の前にいる。
決して望んでいたわけではないのだが、私の心は何故か昂ぶっていて、自分の気持ちに歯止めを利かせるのも大変だった。

断じて喜んでいるわけではない!何故この男がここにいることが嬉しいのだ。そう、私は一人で放浪するのであって、誰かと望んだわけではない。決して!!

「おーい…心の声漏れてますよー…」
「つまりだ!私はお前と旅するつもりなど毛頭ないのだ!レナック!」
「あ、そ。じゃあ帰るわ」
「え…?」

正直彼がそんな事を言うとは思ってもいなかった。戦いの時はいつでも側で私の心配ばかりしてくれた彼が、私を突き放すことを言うなんて。
だが私とてこの性格上、引き留める言葉など掛けられる訳もなく。

「俺にも帰る場所ってのが一応あるからね。親父にも久々に顔見せに行かないと」
「そ…そうか、行くべき場所に行ったらいい」
「なあ、名前」

じゃあこの手は何だよ、と彼の服の端を掴む私の手を指した。
これは無意識だ。間違いなく無意識だ。私はそこからパッと手を離し、そう呟いた。意識していたのか、本当に無意識なのかは正直忘れてしまったが、それが何らかの意味を持っていることくらいは私にも分かった。

「はぁ」
「どうした、ため息なんて吐いて」
「一人旅でトボけて転んでたから颯爽と助けたら、文句言われて帰れって言った挙句の果て寂しそうに引き留めて俺を悩ませてくる女がいるんだよ」
「な…!!」

颯爽とはしていなかっただろう!と断固否定すると、どう考えても否定するのそこじゃないでしょ!とすかさずレナックが言葉を挟んできた。

「あのねえー…」
「別段寂しくなどない」
「はいはい、そうですね」
「…なんだこの腕は」

ふいっと後ろを向いてレナックに背を向けると、スッと腕を回された。今となっては最早慣れてしまい、これくらいで動揺することはなくなった。それだけこのような時間が多かったということに、今更気が付いた。

「…レナック」
「ん?」
「ありがとう、来てくれて」
「俺もすっかり名前がいなきゃダメになったよ」

いつかフレリアへ戻る日は、もしかしたら二人なのかもしれない。
真っ赤な夕陽が私たちの影を照らしていた。そこに出来たのは、寄り添う二人が一つになる影だった。