>
街に出ると祭りが行われていた。祭りは嫌いではないが、好きでもない。対価を払ったのにそれに伴わない結果になることがあるのはどうも腑に落ちないからだ。私は店に群がる人々を横目で見てその横を通り過ぎた。
「人が多いのはどうも苦手だな」
「なんでだ?」
「敵が隠れているかもしれ…って、なんで貴様がここに…!」
「ちょっと、弓を構えるの辞めろよ!おかしいからね!俺だよ!」
必死に私の手を止めるレナックを睨みつけながら私は矢を持つ手を降ろした。全くもっておかしな奴だ。私の警戒心が高いことくらい知っているはずだというのに。
そんなことを考えていると、レナックはすでに私から離れ周りの店を見物していた。
「ほら、名前。来てみろ。射的があるぞ。お前得意だろ?」
「ふん。どうせ子供騙しだ。私は面倒なことはしない性分だからな」
「じゃあ俺と勝負ってのはどうだ?勝ったほうが…そうだな、相手の願いを一つ聞く」
「…はぁ?」
まさかそんな提案が出てくるとは思わず、腑抜けた声が漏れてしまった。射的は私の得意分野…というか、弓を持って戦場に出ていることを彼も知るはずなのに、なぜ自分に不利な提案をわざわざしてくるのかわからなかった。
「なんだ名前、まさか負けるだなんて思ってないだろ?」
「…そんなわけなかろう!ヨシュア殿のようなことを言うな。仕方ないから付き合ってやる!」
勝ったら相手の願いを一つ聞く、か。私はどんなことをレナックに頼もうか必死に考えるが、なかなか答えが出てこなかった。
店主から渡された弓は小さく脆いようで私が持っているのとはまるで違うおもちゃの弓だった。
「ん?こんなもので打つのか?」
「おいおい姉ちゃん、その背中のはダメだからな!渡した弓で打ってくれよ?」
「…ほらほら名前早く打てよ」
「うるさい!急かさずとも負けたりしない!」
快勝するつもりが、一本目は的に当たらず。いつも扱っている弓の感覚で矢を放ってしまい、どうにも距離感が掴めない。にやにやしながらこちらを見るレナックを見て集中力が切れ、二本目も無駄にした。
「なぜこんなものに…!」
「おい、壊すなよ!?」
「わかっている!くそっ、レナック、お前がやってみせろ!」
いらいらしてレナックに弓を投げると、受け取った彼の目つきが変わったのがわかった。それを訝しげに見ていたが、なんと一発で的の中央に当てて見せたのだ。
あのレナックが。
「最後の一言、余計なんだけど…普通かっこいいとか言わない?」
「なぜ、私がお前ごときに…」
「悪いな。実は得意なんだよ、これ。カルチノではよくある賭け事の一つだ」
「…帰る」
プライドが傷つけられた。レナックに負けるなど有り得ないことだ。後ろから何度も名を呼ばれるものの振り返らず祭りを後にしたが、街外れまで来てもう一歩踏み出そうとした瞬間腕を取られた。
「待てって…言ってるだろ…!」
「…お前ごときに…」
「まさか約束…忘れてないよな?」
「約束…!」
そういえば勝負というよりか、賭け事をしていたということを思い出した。私は足を完全に止めたがレナックの視線からは目を逸らし、遠くなった街を見た。
「…はぁ、ほんといつも勝手だな、名前は…」
「で?なんなんだ?早く終わらせたい」
「そう簡単に終わらせてやるか」
「は?」
近づいてくるレナックの瞳は神秘的で、吸い込まれるようだった。そして耳元で囁かれた言葉は屋台の飴もずっと甘く、終わらないものだった。
「一生、俺の隣にいろよ」
>
→