二人で目覚めた朝の事




物語の始まりは、ドーマとミラの2人の神が大陸を分断したところから始まった。まるで白夜と暗夜のようだ、と激しい戦いを思い出しながら彼女は黄ばんだ紙をめくり活字を追っていた。
ことり、と机に陶器が置かれた音がしたと思って顔を上げると、そこには不機嫌そうな白夜王の弟の姿があった。

「タクミさん。どうなさったのですか?」
「どうもしないよ。その話…バレンシア王国の物語だっけ?」
「はい。アルム一世がバレンシア統一王国を作るお話です。もう既に読まれたのですか?」

勤勉な彼のことだ、他の大陸で起きた伝記なども一通り目を通しているのだろうと名前は考えつつタクミに問いかけると、ちょっと前にねという答えが返ってきた。
そして彼は名前の向かいに腰掛けて湯呑みを差し出した。抹茶の香りと湯気が立ち上る。彼が煎れてくれたのだろうか、と頬を綻ばせながら口をつけると、ふわりと新緑の葉の上品な香りが彼女の鼻腔を擽った。

「随分ここに篭っているから様子を見に来たと思えば…」
「とても興味深いので…つい。そんなに経ってしまいましたか?」
「もうとっくに夕刻だよ」

呆れたような言葉を選んでいるが、心配して見に来てくれたに違いない、と名前はタクミの様子を見てふふっと笑い声を漏らした。 不器用で優しい人なのだと分かっているからこそ、こうして彼の側に居たいと思うのだ。名前の微笑みを見てタクミは気まずそうに視線を逸らして窓から書物庫へ差し込む柔らかい夕焼けの光を見つめた。

「…で、どんな話だっけ、それ」
「こちら…ですか?」
「そう。結構前に読んだからもう忘れてしまったよ」

そうですね、と名前は切り出した。二人の神が大陸を二分して統治したこと、その国同士は互いに全く違う色になったこと、きっと彼はその辺りに興味を覚えたのだろう、と彼女は話し始めた。
しばらくはタクミもそんな話だったっけ、と相槌を打っては名前の話に耳を傾けていたが、次第に優しい彼女の声に瞼が重くなっていた。だが眠るわけにはいかないと必死に睡魔と戦っていた。

「あら…タクミさん……お疲れなのですね」

それもそうだ、と名前は彼の隣に移動して頭を撫でた。第一王子であるリョウマが白夜王として即位した後、第二王子の彼もその優秀な頭脳で、兄であり王であるリョウマを支えている。ゆっくり休む暇などないだろうに自分をこうして探しに来てくれたのか、と名前は健気な彼の頬にそっと口付けた。

「ん……名前……」
「えっ…?」

名を呼ばれて、まさか気付かれたのかと名前は驚いたが、タクミが目を覚ます様子はない。夢にも出てきているのだろうか、と彼を自分の方にもたれかかるように体を寄せた。どうか幸せな夢を見てほしい、そう願って。

太陽はすっかり沈み、外の空には星が輝いている。そろそろ彼の臣下達がばたばたと廊下を走って此処に来る頃だろうか、と彼のことが大好きな2人の姿を思い浮かべて名前はもう一度バレンシア伝記を手に取った。

「おやすみなさい、タクミさん」

しばらく伝記を読み進めていたが、彼の重みと温かさで名前も段々と深い眠りに落ちていった。そして不意に書物庫を訪れたサクラは寄り添いあって眠る2人を見つけ、笑顔でそっとその扉を閉めるのであった。

「……っえ、名前!?僕は昨日何を……!」
「ん……タクミ、さん…?」

寝ぼけ眼をぱちくりとさせる名前をよそに、青ざめるタクミは窓の外の陽の光で朝を迎えていることを察し、より焦っていた。何があったか思い出せないタクミはドタバタと椅子から立ち上がって書物庫を出ようとしたが、引き留めようと彼に手を伸ばした名前と地面に落ちていた伝記のおかげで態勢を崩し、逆に名前の手を掴んで彼女も一緒になって倒れた。
そして二人の唇が合わさった瞬間、がらりと扉が開けられた。

「あ、お邪魔しちゃいました?朝食出来てますから、早く来てくださいねー」

ひょっこりと顔を出して微笑んだツバキに、2人は赤面し合うのであった。