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束の間の眠りから目覚めると、ふわふわと明るい紫色の髪が揺れるのが見えた。それまでの記憶を呼び戻すと、確か夜営の見張りをしていたはずだ、と名前は冷えた体をぶるると震わせた。毛布なんて、持ってきただろうか。
「起きたか?」
「フォルス……あ、私…眠って…」
「気にするな。俺は平気だから、お前がこれを使えよ」
ほら、とずり落ちそうだった毛布が再び肩へと掛けられる。しかしこれでは見張りの意味がない、とフォルスに意見してもお前はいいんだと諭されるばかりで一向に聞いてもらえず、毛布は相変わらず名前一人の体を包んでいた。
「どうして此処に?私一人だけの予定だったよね?」
「今夜は冷えるというのに、お前がこれを持って行かなかったからな」
これ、とフォルスがにやりと指差したのは名前が纏う毛布で、そんな彼に対して彼女はバツが悪そうに口元を毛布に埋めた。今夜は冷えるだなんて聞いてない、と名前がぷうと頬を膨らませると、フォルスは彼女の頭をぽんぽんと叩いた。
「そう膨れるなよ。俺も夕方になってからルカに聞いたんだぜ」
「私もルカに聞けばよかった。こんなに寒くなるなんて」
「あいつ、必要以上に口が堅いからな」
「それは口が堅いとかじゃないよ…」
ははっとフォルスは笑ったが、名前は未だ自分だけに与えられる毛布の温もりに居心地が悪く、もぞもぞと体を動かしていた。彼女の行動をフォルスは横目で見ていたが、気が付かないふりをしていつも通りの飄々とした表情で曇った夜空を見上げた。
今日は星もなく暗い空になるとルカに言われ、冷えるのかと尋ねれば悩みながら頷く相棒。自分が夜の見張りであれば防寒具が必要だと当番を確認すると、それは名前の役目であった。
「お前のことだから、何も持ってきてないと思ったのさ」
「む!マチルダさんだったらきっと耐えてるよ!」
「何言ってんだ。あの人は別だぜ。お前は無理だろう?」
「無理じゃ…な…っ…くしゅ」
そう言って再び毛布に口を埋めてくしゃみを一つする名前がおかしくてフォルスは笑いを抑えきれず、口元を手で覆い顔を背けた。肩を震わせる彼に名前は静かにため息を吐いてその息が白くなるのを感じた。冷気がフォルスの体を襲っている。このまま冷え続けて明日の進軍に影響が出てしまったらそれは自分のせいだ、と名前は意を決して毛布を掴み、彼の膝元に掛けた。
「え?」
「フォルスも、寒いでしょ…」
「名前…」
「寒いし、朝も早くから進軍するだろうから自分の天幕に戻ってもいいし…そもそも私の当番だし…」
ごにょごにょと恥ずかしそうに話す名前に、フォルスも釣られて少し頬を染めて毛布の端を持ち、隣に腰掛ける彼女との距離を詰めて密着した。此処へこの毛布を持ってきて、ゆらりと船を漕ぐ名前を見た時から、離れる気など彼には更々無かった。
「ひっ」
「おいおい、お前から掛けてきたんだろ!」
「そ、そうなんだけど、ち、近いよ…!」
「はぁ……これだから無意識は…」
「何よ、無意識って!」
皆が寝静まる中、小声で密に行われる攻防を聞く者はいない。そして二人も頭上に輝き始めた月と星に気づくことはなく、互いの体温を分け合い寒い夜を越していた。
こんなところをクレーべやルカに見られたらきっと大目玉だ、と思いながらフォルスは自分よりずっと小さい名前と肩を並べて笑った。
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