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彼と出会い生まれて初めて一目惚れというものを経験した。初めはルゥやレイと話す彼をじっと見ていることしか出来なかったが、いつだったかそのことに気付かれてしまい、それから急速に距離が縮まったのだ。
そして今、戦地で当たり前のように彼が隣にいることを名前は幸運にも不運にもどちらにも感じていた。
近くにいれば窮地の彼を助けることは出来るが、自分が攻撃を外せばヒュウが対処し、彼が傷を負うこともある。戦いはそう甘くないと分かっていても、そんな時は非力な自分に嫌気がさすのだ。
「はぁ…」
「ん?どうした?ため息なんか吐いて」
「私、この軍で役に立ってないんじゃないかと思って…」
「んなシケた顔すんなよ。ここにいるってことは名前が必要と思われてるからだろ?」
名前が弱気な発言をすれば、不器用な言葉ながらヒュウは彼女を励ました。ヒュウが加入した時既に同盟軍はかなりの規模の人数が集まっており、力になってくれと金を出してまで雇われた自分ですら力になれるかと不安に感じていたのだが、初期から参加している彼女が役に立っていない訳が無いというのは本心だった。
「そう…かな…」
「出撃命令が出されてるうちが華…ってさ。ま、好きで戦場出るやつなんていないだろうけど」
「うん…それは…そうかも……」
名前が膝を抱えるとヒュウは彼女の隣に腰掛けてた。名前と同じ職種の人は他にもいるからこそ負けたくないという気持ちがあるのだろう、とヒュウは察した。いつか使われなくなったらという恐怖が彼女の中に渦巻いている。戦いたいかと問われれば答えは否だが、軍に参加する以上留守番をしたいわけではない。自分で戦い、必要とされたいのだと名前は気がついた。
「けど俺は名前にはこんなとこにいてほしくない」
「え……?」
「ここは戦場だぜ?いつ死ぬかわかんねえしな。俺は死ぬつもり無いけど」
名前がヒュウの横顔をちらりと見ると、相変わらずの飄々とした表情だった。しかしその視線はどこか遠くをしっかり捕らえており、その視線の先を追ったがそこには空と山が広がっているだけだった。彼にしか見えない何かが見えているのだろうか、と名前はぼんやりとその景色を見つめた。
「ヒュウは、強いもんね」
「はぁ?何言ってんだ。当たり前だろ?」
「え、あ…うん、そうだけど、何て言うか…力がじゃなくて、心が強いというか…」
「心?なんだそれ」
こちらを見たヒュウと一瞬視線がカチリと合って、名前は急に恥ずかしくなって顔を背けた。不審に思われたとて、彼女からすればヒュウは密かながらずっと想いを寄せていた相手で、近くにいて意識しないわけがない。
仲間であり戦友であるのは間違いないが、それ以上を望むのが罪になるような気がして名前は誤魔化すように口を開いた。
「うん…!こ、心だよ!」
「急に何吃ってんだよ」
「何でもない!大丈夫、気にしないで」
「はぁ…あのさ、名前」
そういう顔、他の男には見せんなよ、ヒュウはそう言ったのだと思うけれど、あまりに突発的な発言に名前の頭は付いていかず体を硬直させていると、彼はフリーズする彼女の肩を抱いた。嬉しいはずなのに、もはや驚きと戸惑いで何の言葉も発せない、と名前はただひたすらパチクリと瞬きを繰り返していた。
「いい加減気付け、鈍感」
「っ…!」
「…お前、俺に惚れてたろ?」
名前は何も言えずに高鳴る鼓動を悟られぬよう息を止めて唾を飲んだ。頭のすぐ上にヒュウがいると思うとこそばゆくて、いつもなら反応出来るようなヒュウの言葉に目を見開くことで応えた。
「知ってたぜ」
「…なん…っ…」
「まさか、俺が気付かないとでも思ってたのか?」
ヒュウは体を離し、有り得ないとでも言いたげな顔で名前の顔を見つめた。息してるか?と声をかけられてやっと彼女が息を吸うと、ヒュウは笑って背中を摩ってくれた。一方の名前はあんなに近くでヒュウの体温を感じることなんて今まで無かったこともあり、顔が火照るのを感じた。恥ずかしくて顔が上げられないが、ヒュウはどんな表情をしていたのだろう。今更そんなことを気にしても仕方ないのだが、何か別のことを考えないと顔から火が出そうだと名前は必死に頭を回転させた。
「この機会だ。ちゃんと名前の口から言ってくれよ」
「え!?な、何言ってんの…!」
「いやいや、この後に及んで断る選択肢ねえからな?」
「そんなの無…」
無理だよ、と言う前に名前の唇は彼のものよって塞がれてしまい、続きを口にすることは許されなかった。そして次の瞬間囁かれた言葉は焼き菓子よりも甘いもので、名前の瞳からは思わずほろりと涙が零れ落ちたのだが、それはヒュウの親指によって掬い取られたのであった。
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