その夜は、星が非常に美しかったのをよく覚えている。あれからというものの、星空を見るたびに思い出すようになってしまった。
優秀な彼女は魔道軍将も目の前だと言われていた。だが、まさにその地位に内定されようとした日に突如として姿を消したのだ。
誰にも何も告げず、たった一人で。
「パーシバル。久しいですね」
そんな彼女が、またもや突如として私の目の前に現れたのだ。なんの前触れもなく、あの時と変わらない凛とした空気を纏って。
「お前はまさか…名前か?なぜ…!」
「なぜって、この軍に参加してるからですよ。それ以上でもそれ以下でもない。貴方とてそうでしょう?」
「名前…」
「そんな顔をしないでください。私は魔道軍将の器ではなかった、ただそれだけのことです。何も気にすることはありません」
この優しい声色とうって変わって冷静な返答は、いつも通りだ。驚くほど優しい声で残酷なことを言い放つのが彼女だった。
いつ何時も冷静で頭が切れ、魔力も強く、名前を慕う部下も多くいた。
しかし、現在では地位だけでなくその思いすら無下にして消えた彼女を憎む者もいるのが事実だ。
「それは難しいな。魔道軍将に就くべき人間が突然消えて、気にしない者などいない」
「就くべき人間ではなかったということですよ。今の魔道軍将で十分ではありませんか」
「セシリアは急遽の任命でさぞかし重荷を背負っていることだろうな」
「…急に消えたことは申し訳なかったと思っています。ただ、私にもまだやりたいことがあったのです。アクレイアにいては見えないことも多いでしょう?パーシバル。貴方は騎士軍将になって何かエトルリアの為に動けましたか?」
今日もまた、満天の星空になりそうな夕焼けだった。名前には星空が似合う。星空の下で語る彼女の夢や未来はいつも輝いており、私も彼女の想像する世界を創り上げたいと思うほどであった。
きっとそれは、魔道軍将になっては叶えられなかったのであろう。だから姿を消したと、彼女は語った。
「……」
「エトルリアは最早、安泰な国ではなくなってしまいました。この惨状を目にして、貴方も気づいたはずです。首都の栄華は決して広がってなどいないということに」
「それを知るために姿を消したのか?それとも…」
「知るため…それもありました。ですが、知ってしまったら遅かったのです。首都に留まることなど出来ませんでした。アクレイアの虚栄に気付いてしまったら、もうあの場所にはいられなかったのです」
彼女の夢はエトルリアを世界中で一番幸せな国にすることであった。どこに行ってもエトルリアは平和で、地方まで誰もが羨むような豊かな国を創りたいと、何度も口にしていた。
名前はそれを叶えようと奮闘していたのだ。たった一人で。
私はここに来て彼女の消えた理由を初めて知った。
「名前はいつも一人で走り回りすぎだ」
「貴方に言ったところで変わらないでしょう?」
「そう思うか?」
「…変わるのならば、今からでも遅くないですよ」
不敵な笑みを見せた名前の後ろでは、既に星が瞬き始めていた。そう、やはり彼女には星空が似合う。輝く星と、輝く君。
「敵わないな、名前には」
「ありがとう、パーシバル。貴方はいつだって私の味方で居てくれるのですね」
「昔から変わらないことだ。お前が一人で無茶をするのも、私がそれを支えるのも」
「そうですね…懐かしい日々です。本当にありがとう、パーシバル。貴方が居てくれるから、今の私がいるのです」
優しく微笑んだ名前は星の輝きよりもずっと美しく、離れていた月日の長さを感じた。あの時も、こんなにも彼女は美しかっただろうか。
私は天を仰ぎ星を見たが、彼女以上に輝く星はなかった。
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