誰かをこんなにも愛するなど彼自身想像つかなかった。彼女がエルフィン、もといエトルリア王子ミルディンと話しているだけで胸がざわつく。パーシバルは初めて抱く感情に戸惑っていた。
彼女の存在が心から愛しい。今までは国のためと奔走し続け女性に意識を向けることがなかった上、確かに興味を持つ暇もなかった。それは彼女が遠方に出かけて近くに居なかったのもあり、当たり前に幼馴染みだと思っていたのもある。

しかし彼女と再会した日、それは瞬く間に崩れていったのだ。凛とした可憐な姿も、真っ直ぐな瞳も変わらないはずなのに、どこか哀愁の漂う雰囲気がそう思わせたのかもしれない。
澄んだ瞳がパーシバルの姿を映すと、彼女はもの悲しげに微笑んだ。どうしてそんな顔をするのだと言いたくなるような、そんな表情を浮かべて遠い空を見ていた。
そんな彼女を守りたい、側にいたいと彼は思ったのだ。

「名前」
「はい、パーシバル」
「愛している。心から」
「あら、どうしたのですか…突然」

苦しくなるほど愛しているのだが彼女を前にすると、それを伝える正しい言葉が見つからない。どんなに探しても軽薄に思えて、結局同じ言葉を繰り返すだけに留まってしまうのだ。

「パーシバル」
「何だ?」
「私も貴方のことを心から愛しています。私の隣はパーシバル以外考えられません。ですから、ずっと側にいてください」
「ああ、言われなくとも側にいる……」

華奢な体を抱き締めると彼女の甘い匂いに包まれる。この細い肩にエトルリアの期待がのしかかっていると思うとその重圧を少しでも払い除けてやりたいが、彼女もパーシバルもエトルリア騎士であることに変わりはなく、その重荷を除けることは名前の居場所を剥奪することにもなってしまう。
ミルディンからの期待は彼らにとって名誉でもあり、存在意義でもあるのだ。

それでもパーシバルにとって名前は特別以上の存在で、ミルディンとは全く異なる大切な人であった。姿が見えないと心が苦しいと思うほどに女性へ陶酔することなんて、今までの自分では絶対になかったのに。

「どうして名前はそこまで私を惹き付けるのだ?」
「何故でしょう?私も不思議です。貴方と幼少期を共に過ごしてきたのに、今はこんなにも貴方のことを愛しているのですから…」
「そう…か。そうだな」

知らず知らずのうちに惹かれ合い、互いを求めあっていた。パーシバルが名前の手を取ると、するりと白い肌が彼の手の上を滑る。こんなにも細い指で魔道書を持って戦いに挑んでいたのかと思うと、傷がつかなくて良かったとパーシバルはその指に自分の指を絡めた。

「ふふ、擽ったいですよ…」
「このような時に掛ける言葉が見つからないのだ。あまりに愛しすぎてな」
「パーシバル……」
「名前…」

彼女の全てを心から愛している、とパーシバルは思った。女性の気持ちにも疎く、不器用ではあるがその想いは名前へとしっかり伝わっている。それでも、彼は伝えられていないと感じていた。彼女への自分の想いがどれだけ大きいものか。
名前は絡められた指をきゅっと握り返し、分かっていますと言わんばかりに彼の顔を見上げた。

「んっ……」

パーシバルはそんな名前に口付けを落とすと、抱きしめたままの触れ合う肌が熱を持ってきたのが分かった。パーシバルの中で潜めていた想いが溢れて止まらなくなる。このままでは名前を壊してしまいそうだ、と彼は口角を上げた。