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※終戦後、エルフィンがミルディンとしてエトルリア王に即位した後の話。
王からの突然の提案に、臣下達は驚きを隠しきれずざわめいた。それはまもなく日付が迫る収穫祭、つまりハロウィーンに開催する宴会の提案であった。それも、各々が仮装して。
パーシバルは笑顔で語る主君に悟られぬよう息を吐き、隣の名前の様子を窺うと、同じような表情をしており2人で顔を見合わせると彼女は困り顔で微笑んだ。
「貴方も苦手でしょうから、よく分かります…」
「ああ…。名前はどうするのだ?」
「ミルディン様のお決めになったことですからね…。私は前日まで郊外へ遠征なので、衣装は催しが得意な部下に用意させます」
「そうか。それならば致し方ないな…」
まさか将軍の君たちが私の提案を跳ね除けることはないだろう?と有無を言わさぬ意地悪な視線を向けるエトルリア王の表情を思い出し、パーシバルは自室で盛大に溜息を吐いた。
名前も衣装を用意するのならば、自分もせざるを得ない。彼に従順なセシリアが反対するとも思えず、パーシバルは困り果てた。
「パーシバル将軍は既に収穫祭の衣装をお決めになったのですか?」
「否、これからだ。何故だ?」
「いえ、将軍であればこの辺りがお似合いかと思いまして…」
部下が見せてきた収穫祭の仮装は主におどろおどろしい空想上の妖怪であった。そして彼が勧めてきたのはその中の一つ、ほとんど人間と変わらぬ出で立ちの妖怪。ちらりとその姿を見て、これであれば構わないから衣装を用意しろと命じた。
宴当日、エトルリア城の広間は騒然としていた。それもそうだ、名だたる貴族や騎士たちが各々の衣装に身を包み集結しているのだから。
パーシバルもまたそのうちの一人であった。彼は髪を後ろへと流し黒い外套に身を包み、その目はいつもと違い赤色に施されている。
所謂、ドラキュラの格好だ。
騎士軍将の普段見せない姿に、貴族の娘達はおろか、見習い騎士達も輝く目で彼を見つめていることにパーシバルは気付くことなく辺りを見回していた。
「パーシバル将軍!」
声がする方向へと振り向くと、そこには名前の部下の姿があった。随分と念入りに化粧をしたのか相当血色が悪く見えるが、彼女は笑顔で彼へと駆け寄ろうとした。が、彼女はなかなか進んでは来ない。何事かと思ったがどうやら後ろに何かを隠しているらしい、それが彼女の歩みを妨げている。
「名前様、もう隠れられませんよ…?」
「どうしてこのような衣装にしたのですか…!」
「こんな機会でないと短い丈を着ていただけませんから、特別ということで…お許しください!」
がばりと勢いよくお辞儀をして彼女は後ろに隠していた人物をパーシバルの前へと突き出し逃げるように人混みへと紛れていった。彼の前に残されたのは、胸元の空いた服、丈の短い黒のスカート、そして尖った耳と長い尻尾を付けた名前の姿であった。よく見れば首元には鈴があしらわれて彼女が動く度にちりんと優しい音を奏でる。
「……猫か」
「猫か、ではありません!まさか、こんな恥ずかしい格好をさせられるとは…!」
「ミルディン様はお喜びになるだろう」
「パーシバル!あ、貴方はその…とても似合っていて、羨ましいです…」
体にぴったりと張り付くスカートを必死に抑えて名前はパーシバルの隣へと体を寄せ、彼の目をまじまじと見上げた。どうやら赤い目が気になるらしいが、パーシバルは彼女と視線を合わせようにも胸元が気になってそれどころではなく、必死に目を逸らそうとしていたが、この状況でどうなる訳もなく。
彼は諦めて名前の珍しい姿をまじまじと見ることにした。短く体の線が見えるスカートはワンピースのようだ。それと網タイツは普段は軍服の下に隠されている彼女の細い足や腰を際立たせている。
一方の名前は、パーシバルの出で立ちに驚きを隠せなかった。赤い目のせいでいつも以上に鋭い視線で見つめられると、まるで金縛りにあったように感じる。彼の動きの一つ一つが美しい、と。
「その格好で、ここまで来たのか?」
「入口までは外套を羽織っていたのですが、彼女に取られてしまって…」
「そうか…」
貴族の中年の男共だけではなく、騎士たちも普段見れない名前の姿に目をぎらつかせていることにパーシバルは気付き、彼女の手を引いて自分の外套に体ごと包むと、後ろ手に肌の感触を感じる。はっとして背中を見ると、そこは編み上げになっており無防備に白い肌を晒していた。
彼女の部下に説教をしなければと誓いながらパーシバルはそのまま名前を腕の中に閉じ込めた。
「パーシバル、何を…!」
「お前のそのような格好を他の者に見られるなど、私が許さない」
「えっ…?」
「この黒猫は私が飼うことに決めた」
パーシバルは大きな外套で自身の姿をも隠し、名前の首へ下がる鈴をするりと撫で、赤い唇へそっと口付けを落とした。
◆おまけ
「パーシバル、名前。君たちの仮装も評判だな」
「恐れ入ります。ミルディン様は何故悪魔の格好を?」
「これはセシリアたっての希望でね。私が選んだ訳では無いんだ」
「ふふ、ミルディン様が天使では何も面白くありませんから」
「セシリア殿の衣装は…魔女、でしょうか?」
「ええ、これはミルディン様の提案なのです。私に似合うだろう、と…」
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