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設定:10年後、23歳。
夢主:イサドラの娘の騎士。烈火要素あり。
果てしなく続く遠い空の向こうには人ではない種族が間違いなく実在する。母から聞いた竜の話は興味深く、年を重ねて物事が理解出来るようになってから幾度となく竜に関する文献を読み漁った。かつて起こった人竜戦役に敗北した竜達は、扉一枚で繋がった向こう側の世界に今なお住んでいる。竜の彼――その名を母はニルスと呼んだ――はその扉の向こうに消えていったのだと。魔の島と呼ばれるヴァロール島に潜む神殿の奥深くにある扉の向こうへ。
「また勝手に人の本読んでる!」
「おい、まだ途中なんだよ。返せ」
「返せじゃないでしょ、レイ。これは私の大切な本なの!」
長く伸びた髪を鬱陶しそうに払い、レイは頬を膨らませる名前を見上げた。23になったレイは変わらず闇魔道を極める道を進んでおり、フェレ家に仕える名前の家に入り込んでは貴重な文献を読んでいることがある。それを厳格なはずの母に指摘して貰おうとも、ただ笑われるだけでレイを止めようとはしてくれなかったのだ。
レイはため息を吐いて立ち上がり、途中で彼女に奪われた本をひょいと取り返した。
「あ!もう、レイ!」
「良いだろ、お前の母親も俺を認めてるんだから」
「あれは認めてるんじゃなくて、諦めてるの!」
「どっちでもいいけど、続き読ませろよ。闇魔道とこの時代のことは切り離せないんだ」
レイは各地を放浪しながら闇魔道に関する情報を集め、かの偉大なるブラミモンドを超えようとしていた。しかし彼に関する文献はほぼ無いに等しく、レイはブラミモンドと共に戦ったアトスやエリミーヌなどの偉人も同時に調べていた。そして辿り着いたのがネルガルという男と、彼によって導かれた姉弟の存在であった。
「あのさ、名前。お前、もしかしたら…ニニアンとニルス、って知ってるか?」
「え…?うん。知ってるよ。母上が前の大戦で一緒に戦ったっていう…」
「竜、なんだよな。ま、その辺なら俺でも知ってるんだけど」
レイにどうしてこんなにも闇魔道に没頭しているのか聞いたことがあったが、当時の名前には彼の並々ならぬ決意がこれっぽちも理解出来ず、その時はさらりと流してしまったことを思い出した。
彼が闇魔道の真髄に近づく度に遠い存在になるような気がする、と名前はレイの長いローブを掴んだ。
「名前?」
「レイ、だめだよ、やっぱり闇魔道なんて危険だよ…」
「なんだよ急に。俺は誰に止められたって立ち止まる気は無いって前にも言っただろ」
「でも、ブラミモンドって…自分が無くなってしまったって…。人格がおかしくなったって…」
レイにはそんな風になってほしくないよ、と名前は小さく呟いて床に視線を向けた。するとふっと笑ったような声が聞こえ、顔を上げるといつもの得意げな顔で彼女を見下ろすレイの姿があり、少しだけ安心する自分がいると名前は感じた。
「あのなぁ、んなもん、なるわけないだろ?大体な、お前も兄貴も俺の力を侮りすぎなんだよ。俺はブラミモンドみたいに闇魔道に飲まれるつもりはないさ」
「でも、ブラミモンドって人だって、そんなつもりじゃなかっただろうし…!レイがそんな風になっちゃったら…!」
馬鹿だな、お前は。とレイは名前の顔を覗き込んで再び笑って、お前は俺のことを信じてないな?と額をつつかれる。レイはこんな自信家だっけ、とふと気付いたところで時既に遅し。ひらりとローブを翻して書物庫を出ようとしていたレイの足を留めることに精一杯だった。
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「レイ、絶対、絶対また帰ってきてね…!」
「はぁ?だから名前、さっきから何おかしなこと言ってるんだよ」
「私が前あげたお守り、ちゃんと持ってる?」
この背中を見送ったら二度と会えないような、そんな気がして怖かったなんて言えなくて、名前はレイに昔渡した動物が描かれたお守りの存在を彼に問い詰めた。
「あるよ。ほら、証拠だ。満足か?」
ちりんと鳴った懐かしい鈴の音。本来は彼女の母が、騎士になるために鍛錬していた名前にくれたものだったが、無事にフェレの騎士となった彼女はそれをレイに渡したのだった。彼のことを守ってくれるように、彼が無事に戻ってきてくれるように。
「うん、行ってらっしゃい、レイ…」
「ああ」
ざわざわと木々が揺れたと思ったら次の瞬間強い突風が2人の間を過ぎ去った。名前が咄嗟に目を閉じると、耳元で鈴の音が聞こえ、次の瞬間に彼の姿は目の前から消えていた。
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